2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J03270
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
井上 実紀 九州大学, システム生命科学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 精巣 / 胎仔ライディッヒ細胞 / 細胞分化 / 代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、転写因子が制御する代謝という新たな視点に立ち、胎仔ライディッヒ細胞の分化メカニズムの解明を目的とした。これまでの研究から、胎仔ライディッヒ細胞とその前駆細胞の代謝は、Ad4BPによる促進とCOUP-TFIIによる抑制のバランスの上に成立し、この両者による代謝の制御が胎仔ライディッヒ細胞の分化に不可欠であると推測した。そこで、siRNAを用いた機能喪失実験を行ったところ、前駆細胞におけるAd4BPとCOUP-TFIIの発現を20%以下にノックダウンすることに成功した。Ad4BPをノックダウンした結果、代謝関連遺伝子の発現が有意に減少し、胎仔ライディッヒ細胞の分化が抑制された。一方、COUP-TFIIのノックダウンでは、予想に反し代謝関連遺伝子は活性化せず、胎仔ライディッヒ細胞の分化は促進されなかった。この結果は、COUP-TFIIを含む複数の転写因子が前駆細胞の代謝抑制に関わっていることを示唆した。また、アデノウイルスを用いて前駆細胞にAd4BPを強制発現したところ、約3割の細胞が胎仔ライディッヒ細胞に分化することを確認した。以上の結果はAd4BPが胎仔ライディッヒ細胞の分化に必要不可欠であり、分化の際にAd4BPが代謝を活性化することを示唆した。さらに、Ad4BPとCOUP-TFIIが代謝を直接制御することを示すために、5万個の細胞を用いたChIP法を確立した。一方、Ad4BPの強制発現による胎仔ライディッヒ細胞への分化が3割にとどまっていることは、前駆細胞とした細胞集団はヘテロな細胞からなることを示唆した。そこで、前駆細胞集団を一細胞トランスクリプトーム解析したところ、この集団がさらに複数の細胞集団に分かれ、前駆細胞の可能性が示唆される集団を同定することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前駆細胞でのAd4BPとCOUP-TFIIに対する機能喪失実験とAd4BPの機能獲得実験を確立した。その結果は、Ad4BPが胎仔ライディッヒ細胞の分化に必要不可欠であることを明らかにし、分化の際にAd4BPが代謝を活性化することを示唆した。一方、COUP-TFIIを含む複数の転写因子が前駆細胞の代謝抑制に関わっている可能性が示唆された。また、これまで所属研究室では100万から1000万個の細胞をChIP-シークエンスに用いてきた。同数の胎仔ライディッヒ細胞の調製は困難であることから、少数細胞でのChIP法の確立を行い、COUP-TFII抗体を用いて5万個の前駆細胞でのChIP-qPCRに成功した。さらに、前駆細胞としてきた細胞集団について一細胞トランスクリプトームを取得した結果、前駆細胞の可能性が示唆される集団を同定することに成功した。この結果からさらに少数の細胞でのChIP法が必要だと考え、100細胞からのエピゲノム解析が可能であるChILT (chromatin integration labeling technology) 法を東京工業大学の木村宏先生にご教授いただいた。現在、胎仔ライディッヒ細胞と前駆細胞のAd4BPとCOUP-TFIIに対するChILT法の条件検討を行っている。以上のように、部分的には期待通りに進まなかった点はあるものの、これらの点については新たなターゲット遺伝子を解析に加えたり、また一細胞シークエンスなどの新たな解析手法を導入したりすることで目的の達成に向け実験を進めており、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の結果から、COUP-TFIIを含む複数の転写因子が前駆細胞における代謝の抑制に関わっていることが示唆された。今後は、COUP-TFII 以外の抑制因子の探索や、COUP-TFIIの強制発現で胎仔ライディッヒ細胞の分化が抑制されるかを検討する。特に、所属研究室で長年にわたって解析してきたArxは前駆細胞集団に発現し、転写を抑制すると考えられている。胎仔ライディッヒ細胞の分化抑制にCOUP-TFIIとArxが関与する可能性をノックダウン実験や強制発現実験によって検討する。また、Ad4BPのノックダウンで抑制され、強制発現で活性化した代謝関連遺伝子に着目しつつ、これらの操作を行った細胞においてどのような遺伝子発現が変化したかを明らかにする。さらに、顕著な発現変化を示す代謝関連遺伝子についても機能喪失実験と機能獲得実験を行い、胎仔ライディッヒ細胞の分化が抑制または活性化されることを示す。これらの結果を遺伝子発現カスケードの視点から理解するには、ここで取り扱う転写因子、Ad4BP、COUP-TFII、Arxの標的遺伝子を同定しなければならない。そこで前年度に習得したChILT法を用いて、胎仔ライディッヒ細胞と前駆細胞におけるAd4BP、 COUP-TFII、Arxの結合領域を同定し、両因子が代謝関連遺伝子を直接的に制御することを明らかにする。以上の結果により、キーとなる転写因子が細胞内の代謝を制御することで、前駆細胞から胎仔ライディッヒ細胞への分化を制御することを示す。
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Research Products
(6 results)