2017 Fiscal Year Annual Research Report
Theoretical research on antiferromagnetic spintronics
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17J03368
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
山根 結太 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | スピントロニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
電子は、電荷とスピンの二つの自由度を持つ。トランジスタに代表される従来のエレクトロニクスは、電荷の制御に主眼を置いてきた。一方、スピンも利用した新たな物理現象を発見し、それを応用した次世代デバイスの実現を目指す研究分野は、スピントロニクスと呼ばれる。特に近年、既存のデバイスに比べ劇的な小型化・高速化を実現し得る物質群として、反強磁性体が注目されている。しかし反強磁性体は、従来用いられてきた強磁性体に比べ磁気的な制御・観測が難しく、これは反強磁性体のデバイス応用に向けて大きな障壁となっている。申請者はこれまでの研究で、古典反強磁性金属のダイナミクスが、電流・電圧を用いて電気的に制御・観測可能であることを理論的に指摘している。今後、本研究課題においては、1)ある種の反強磁性物質に特有の「量子多体効果」を理論に組み込むこと、そして2)理論の「反強磁性絶縁体」への拡張、が課題となる。 当該年度においては、上記目標達成のための最初のステップとして、古典反強磁性体の基本的なダイナミクスについてより深い理解を得ることを目指し、それに成功した。従来のデバイス応用において、反強磁性体の直接的な利用が限られてきたのは、磁場による制御が難しいためである。そのため上述のように、電気的な制御の可能性に現在注目が集まっている。しかし、電流と磁場を同時に印加した場合に何が起きるかについて既存研究ではほとんど言及がない。申請者は、対称性の観点から、電流下においては、磁場がこれまでに知られていない新たな効果を引き起こす可能性があることを指摘し、これを定量的に定式化することに成功した。そして、反強磁性磁壁に電流と磁場を印加した場合、電流のみを印加した場合に比べ、その移動速度が(磁場の向きや大きさに依存して)変調されることを見出した。これは、反強磁性研究における磁場の役割を見直す第一歩となる成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当該年度においては、他機関のグループとの新たな共同研究体制を築くとともに、コンスタントな成果発表を行うことができた。共同研究については、申請者が以前まで所属していた原子力研究開発機構とマインツ大学(ドイツ)の理論研究グループとの共同研究に加え、本年度から新たに、東京大学の実験グループを中心とするプロジェクトの一員として参加している。これは、申請者の視野と見聞を広げ、本研究課題に新しい方向性や可能性をもたらす作用を見せている。現在は、申請者が理論サポートを与えた実験研究の論文投稿を準備中であり、今後も活発な議論の元で研究を進めていく。 申請者自身が代表となる研究成果については、前述のマインツ大学との共同研究の元、反強磁性磁壁ダイナミクスにおける電流と磁場の効果、特に二つの効果のcross termについて明らかにした成果が、Physical Review Bに掲載されている。そして、これまでの研究成果が評価され、2017年10月にフランス・グルノーブルで行われて国際ワークショップ「Workshop on Antiferromagnetic Spintronics」において、招待講演を依頼され、これを行った。これにより、自身の成果の国際的な認知を広げるとともに、参加者間で有意義な情報交換を行うことができた。またその他、SpinTECH IXや秋季・春季日本物理学会をはじめとする国際・国内学会で発表を行い、今後の研究推進のための情報収拾を行った。 複数の他機関・他グループとの共同研究と、積極的な学会・ワークショップ参加から得られる見聞に基づき、本研究課題を当初の予定以上に進展させることができたと同時に、今後の新しい方向性を見いだすことにも成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
反強磁性体はスピントロニクス分野では新参の物質だが、他分野、例えば量子スピン分野では、その基底状態や、反強磁性絶縁体で重要となるスピン波励起が昔からよく調べられている。そこで、領域横断的な研究方針のもと、他機関・他分野の研究者との交流をより積極的に行う。例えばドレスデンのマックスプランク研究所には、一般的な量子多体効果の取扱いにおいて秀でた理論グループが複数ある。また、量子スピン研究についてはスタンフォード大学から、スピントロニクスともオーバーラップのある研究が発表されている。こうした研究グループとコンタクトを取り、中長期の滞在を通じて、理論や技術の習得を目指すともに、領域横断的な新たな共同研究の可能性を探る。海外での滞在期間を利用して、国際学会へも積極的に参加する。具体的には、7月にアメリカ・サンフランシスコで開催されるInternational Conference on Magnetism (ICM) 2018と、9月にドイツ・マインツで開催されるJoint European Magnetic Symposia (JEMS) 2018に参加し、発表を行う予定である。また、2019年にアメリカで開催されるJoint MMM-Intermag Conference 2019とAPS March Meeting 2019についても、いずれかへの参加を計画している。国内の研究グループとも引続き共同プロジェクトを遂行していくとともに、日本物理学会をはじめとする国内学会・ワークショップへの継続的な参加・発表を行う。
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Research Products
(7 results)