2017 Fiscal Year Annual Research Report
患者由来乳歯幹細胞を用いた肝疾患病因解析と幹細胞治療
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17J03382
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
園田 聡一朗 九州大学, 大学院歯学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 乳歯幹細胞 / 肝組織再生 / 胆道閉鎖症 / エピジェネティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
胆道閉鎖症患者由来乳歯幹細胞(BA-SHED)を用いて「疾患モデル解析」と「幹細胞の機能改善」を行うことで、1)幹細胞を介した病因の解明、2)患者由来幹細胞の医療応用適格化、3)疾患本態に対する新規治療標的の提示、を成果として得ることを目的として研究を実施した。 まず、胆管上皮細胞分化誘導系を確立すべく、健常児由来乳歯幹細胞(健常SHED)を用いて分化誘導を行った。定量的PCR解析にて、分化度の評価を行った。分化マーカーであるSOX9遺伝子ならびにCK7遺伝子の発現を示す分化系が得られた。今後さらに、成熟胆道上皮細胞のマーカーであるCK19のタンパク質局在を解析する必要がある。 胆道閉鎖症の病因解析のために、未分化状態の健常SHEDならびにBA-SHEDの遺伝子発現解析およびタンパク質発現解析を実施し、BA-SHEDにおけるHNF6の発現上昇を明らかにした。遺伝子発現レベルでHNF6の高発現が維持されていたため、エピジェネティックな制御を疑い、HNF6のプロモータ領域のエピジェネティック解析を行った。CpGアイランドのDNAメチル化には有意な差が認められなかった。一方で、未分化の健常SHEDと比較して、BA-SHEDのHNF6プロモータ領域ではクロマチンアクセシビリティーが上昇していた。さらに、健常SHEDをTNF-αおよびIFN-γにて共刺激すると、BA-SHEDと同様のクロマチンアクセシビリティーを示した。また、ChIPアッセイにて、健常SHEDと比較して、BA-SHEDのHNF6プロモータ領域でクロマチンリモデリングタンパク質であるBRMおよび転写因子のp65ならびにp50が高頻度に結合していた。これらの結果から、炎症性の刺激により、HNF6発現に対する病的なエピジェネティック制御が生じている可能性が示唆され、病因ならびに治療標的の有力な候補であると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
検討した分化系では、SOX9ならびにCK7遺伝子の発現上昇が認められた一方で、分化誘導終了時に成熟した胆道上皮細胞の特異的マーカーであるCK19遺伝子の発現が上昇しなかった。CK19は、分化誘導終了時に高い遺伝子発現が認められない場合も、タンパク質の局在を認めることが報告されている。未分化状態の健常SHEDでは、ヒト肝臓由来total RNAと比較しても、CK19遺伝子が高く発現しており、分化誘導終了時に十分なタンパク質が局在している可能性が考えられる。したがって、今後の分化誘導系の評価において、CK19のタンパク質局在の解析を行う必要がある。 BA-SHEDを用いた胆道閉鎖症の病因の解析において、当初DNAメチル化による遺伝子発現制御が原因ではないかと考えた。しかし、Pyrosequencingを用いたバイサルファイトシークエンス法により、HNF6のプロモータ領域に存在するCpGアイランドを定量的に解析したところ、健常SHEDとBA-SHEDの間に有意な差は認められなかった。したがって、他の制御機構が働いているものと考え、プロモーター領域のクロマチンアクセシビリティーを解析した。未分化の健常SHEDと比較して、BA-SHEDのHNF6プロモータ領域ではクロマチンアクセシビリティーが上昇している事を明らかにした。さらに、健常SHEDをTNF-αおよびIFN-γによる共刺激および、BRMならびにp65、p50に対するChIPアッセイにて、炎症性刺激によるHNF6発現に対する病的エピジェネティック制御が生じている可能性が示唆された。今後、この機構が病因であると考え、BA-SHEDの医療応用適格化および治療標的としての提示を目指し、病的エピジェネティック制御の正常化を試みる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、培養系をタンパク質発現解析にて精査し、健常SHEDとBA-SHEDの分化能力の違いを明らかにする。HNF6は胆道上皮細胞への分化初期に発現することで、分化を抑制することが報告されており、病的エピジェネティック制御によりHNF6を高発現しているBA-SHEDは、胆道上皮細胞への分化に異常をきたすことが予想される。すなわち、病的エピジェネティック制御の正常化によりこの分化能力を改善することで、BA-SHEDの肝組織再生能力を医療応用に適格なレベルへ回復しうると考えられる。確立したin vitro 胆道上皮細胞分化培養系によって分化度を解析し、BA-SHEDの病的エピジェネティック制御の正常化を評価する。 これまでの研究で、BA-SHEDにおけるHNF6の病的エピジェネティック制御を明らかにした。今後、胆道閉鎖症の病因を解析するために、TNF-αおよびIFN-γ共刺激、またはCRISPR-dCas9システムを用いてHNF6遺伝子の過剰発現させた健常SHEDを疾患モデルとし、胆道上皮細胞分化能解析および移植治療効果の判定を行う。炎症性刺激による要因が示唆された。また、この病的エピジェネティック制御について、炎症性刺激が要因である可能性が示唆された。したがって、正常化にあたり、炎症性シグナルの阻害ならびに、BRMおよびNF-κBシグナリングの阻害が有効である可能性が考えられる。今後、これらの阻害試験を行い、HNF6プロモータ領域のクロマチンアクセシビリティー抑制およびHNF6遺伝子発現の抑制によるBA-SHEDの正常化を試みる。さらに、in vitro 胆道上皮細胞分化培養解析ならびにCCl4誘導性肝不全モデルマウスへの移植試験により、正常化BA-SHEDの肝組織再生能力改善を評価する。
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Research Products
(1 results)