2017 Fiscal Year Annual Research Report
卑金属ナノ粒子触媒の創成を基軸とする新規触媒反応の開発
Project/Area Number |
17J03451
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
上田 耀平 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 触媒 / ニッケル / アセトニトリル / 炭素―炭素結合切断 / 有機ケイ素還元剤 |
Outline of Annual Research Achievements |
アセトニトリルは安価かつ低毒性であり、青酸カリウム (KCN) やシアン化銅 (CuCN) といった高毒性なニトリル源に代わる芳香族ハロゲン化物のニトリル化剤として注目されている。アセトニトリルを用いて芳香族ニトリル化合物を合成するためにはアセトニトリルの強固な炭素―炭素結合を切断する必要がある。この困難さからこれまで報告例は3例に留まり、かつ120℃から160℃の高温が必要であった。私はより温和な条件での反応進行を目的に、強固な結合切断に有効であることが知られている低原子価ニッケル種に着目した。私は、当研究室で高い還元能力を見出した有機ケイ素化合物が高活性な低原子価ニッケル種を与える知見を既に得ていたため、ニッケル錯体触媒に有機ケイ素化合物を加え、芳香族ハロゲン化物のニトリル化反応を試みたところ、10%と低収率ではあるが、目的とする芳香族ニトリル化合物が得られることが明らかとなった。本反応においては、ニッケル触媒の構造と、添加する配位子の構造のどちらも極めて重要であり、種々スクリーニングの結果、触媒としてカチオン性テトラフルオロホウ酸ニッケル錯体、配位子として1,10-フェナントロリンを加えた触媒系が最も効率的に芳香族ハロゲン化物をニトリル化し、対応する芳香族ニトリル化合物を90%近い収率で得られることを見出した。本反応に適用することができる基質は20種類以上と多く、一置換や多置換アレーン類、インドール、カルバゾール、ピリミジン、フランなどのヘテロ環芳香族を高い収率でニトリル化することが可能であった。また保護基を有するフェノールもしくはアニリン誘導体においても中程度から高収率で目的物であるニトリル化合物を得ることに成功した。最も効率的にニトリル化される原料は芳香族臭化物であるが、芳香族塩化物、芳香族トリフラートでも中程度の収率で反応が進行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた、有機ケイ素化合物還元剤を作用させることで得られる低原子価卑金属化合物を触媒とする有機分子変換反応の開発に精力的に取り組んだ結果、有機ケイ素化合物還元剤が従来の金属還元剤とは質的に異なり、特に、ニッケル触媒と組み合わせることで複数の特異的反応性が発現することを見出した。具体的には、ニッケル錯体を触媒、有機ケイ素化合物を還元剤に用いることで、アセトニトリルの炭素―炭素結合が切断され、芳香族ハロゲン化物のニトリル化反応が効率的に進行する触媒系を開発した。本反応の目的物である芳香族ニトリル化合物は、当初、別反応の検討時に副生成物として得られたものであったが、徹底的に検討を行った結果、高収率で目的物である芳香族ニトリル化合物が得られる条件を見出すに至った。本反応は従来の金属還元剤(亜鉛やマンガン粉末など)および、他の有機還元剤(テトラキス(ジメチルアミノ)エチレンなど)存在下では進行せず、有機ケイ素還元剤を用いたときのみ特異的に進行するため、独自性の高い反応である。本反応における主たる発見は、現在までの有機金属化学の知見に基づいても、最も切断が困難といわれる炭素―炭素結合が、80℃という温和な条件で切断できる点である。結合切断が容易に進行する要因は、有機ケイ素化合物がアセトニトリルを活性化している点に由来する。即ち、有機ケイ素化合物とアセトニトリルは平衡反応においてより活性の高い化学種を系中発生させることが可能である。ニッケル錯体はこの一瞬発生した活性種と反応することにより、アセトニトリルの炭素―炭素結合が切断される。上記したメカニズムは各種コントロール実験、触媒サイクルの中間体の単離と合成、その反応性の検討結果から導き出されたものであり、今後さらなる追加実験により実験的証拠を集めた暁には、本研究成果を論文として上梓する計画をしている。
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Strategy for Future Research Activity |
今回開発したニッケル錯体と有機ケイ素化合物の組合せは、今後より広範な化合物の炭素―炭素結合の切断を伴う化合物変換反応に応用できる可能性が期待できる。特に、炭素―炭素結合切断が進行する点を積極的に活かせば、従来、反応不活性として注目されていなかった安価な原料をカップリングパートナーとして有用化合物の合成に利用することができる。併せて、有機ケイ素化合物還元剤を利用したニッケル触媒以外の反応開発に関しても注力する計画をしている。
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