2017 Fiscal Year Annual Research Report
南極大型大気レーダーPANSYによるスケール階層構造と極域大気擾乱の実態の解明
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17J03536
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
南原 優一 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 大気重力波 / 中層大気 / 大気レーダー / 南極気象 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年10月から2016年9月の1年間に亘るPANSY レーダーのフルシステム観測データに基づいた、対流圏・下部成層圏重力波の統計解析を行った。周波数パワースペクトル解析から、昭和基地の慣性周期に近い周期をもつ成分の卓越が下部成層圏で見られた。次に、下部成層圏で卓越している周期6時間から1日、鉛直波長 5 km以下の成分を慣性周期に近い周期をもつ重力波 (NIGW) として定義をして、NIGW の力学的な特徴をホドグラフ解析の手法を用いて統計的に調べたところ、 NIGW の波源が、地表・対流圏界面付近・冬季の成層圏もしくは成層圏以上にあることを示唆する結果が得られた。また、成層圏の NIGW の対地水平位相速度の確率密度分布を調べたところ、上向き群速度の NIGW が地形に波源を持ち、下向き群速度の NIGW が成層圏の極夜ジェットに波源を持つと考えると整合的な結果が得られた。さらに、NIGWの鉛直・水平波長、固有・対地周波数についての統計解析の結果を示した。これらの定量的な議論は、重力波を解析対象とする数値シミュレーションや気候モデルにおける重力波のパラメタリゼーションの改善に有益な情報である。 2016年4月に昭和基地上空で観測された対流圏界面を貫く極めて強い鉛直風擾乱について、PANSY レーダー観測と高解像度全球静力学モデル(NICAM) による数値再現実験を相補的に用いた事例解析を行った。解析の結果、発達したリッジを伴う蛇行した対流圏ジェットが南極大陸の地形を吹き下る際に地形性重力波が励起され、それに伴う鉛直擾乱がPANSY レーダーでこの期間に観測されたことが分かった。さらに、PANSY レーダーで観測されたような最大級の運動量フラックスをもたらす擾乱は、蛇行した対流圏ジェットに伴って南極沿岸部で同時多発的に励起していることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
南極域対流圏・下部成層圏における慣性周期に近い周期を持つ重力波に関する統計解析の内容をまとめ、11月に国際学術誌 Journal of Geophysical Research Atmospheres に投稿した。当初の投稿の予定からは遅れたものの、現在条件付き受理に至っている。この論文の内容について、国内学会・国際学会にて研究発表を行い、他の研究者と議論し知見を深めた。 2016年4月に昭和基地上空で観測された対流圏界面を貫く極めて強い鉛直風擾乱についての事例解析では、PANSY レーダー観測と高解像度全球静力学モデル(NICAM) による数値再現実験を相補的に用いた研究を行った。数値再現実験では、NICAM モデルの力学を担っているプログラムに変更を加えて、水蒸気による潜熱の効果を無視した理想再現実験を行った。この実験を通して、数値シミュレーションに対する知見を深めた。また、この論文の内容について国内学会にて研究発表を行った。 さらに、2015年10月から2016年9月の1年間に亘るPANSY レーダー観測データを用いて、重力波の間欠性について研究を行い、現在内容をまとめ論文化作業中である。重力波の間欠性の鉛直構造については過去の観測的研究が無く、PANSY レーダー観測データに基づく研究が新しい知見を与える可能性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
重力波は時空間的に極めて間欠的な構造を持つことが知られている。PANSYレーダーの長期に亘る高時間分解能データを用いることで、南極域沿岸部の重力波の間欠性の鉛直構造・季節依存性を調べることが可能となる。特に、重力波の間欠性の鉛直構造については、過去のlong-duration balloonや衛星による観測では調べることができず、数値再現実験による推測しかなされなかったものである。背景風の強さと重力波の間欠性の関係を調べたところ、背景風の強さによって重力波運動量フラックス (GWMF) の確率密度分布は階層化されることが確認された。さらに、成層圏の背景風が弱い夏季の下部成層圏では、成層圏の背景風が強い冬季と比べて、大きな運動量フラックスの頻度が著しく減少することが分かった。さらに、重力波の間欠性について、時間高度断面を調べたところ、5-7月の冬季の上部対流圏・下部成層圏で極めて間欠性が小さいことが分かった。また、下部対流圏の間欠性は年に数回起こる激しい鉛直風擾乱に大きく依存することが分かった。さらに必要な解析を加え、背景風による重力波のフィルタリングによる影響と背景風に依存する飽和振幅の影響を定量的に議論し、これらの結果をまとめ論文化する予定である。
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Research Products
(5 results)