2018 Fiscal Year Annual Research Report
鳥類のジレンマ~歩行安定性と飛行安定性のトレードオフ~
Project/Area Number |
17J03543
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田中 郁子 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 鳥類 / 足跡 / 歩行 / 重心位置 / 骨 |
Outline of Annual Research Achievements |
化石鳥類の歩行時における重心位置を推定するために,現生鳥類の三次元形態モデルから重心の計算を試みたが,推定される重心の位置の誤差が小型の脊椎動物に対しては大きく,歩行時に鳥類の身体の外へ重心位置が出てしまう事もあったので,これを採用する事が出来ない事がわかった. そこで,重心に影響を及ぼす後肢の姿勢に着目し,後肢の姿勢を足跡形状から推測する方法を模索した.現生鳥類を用いた歩行実験から,後肢の接地角度と足跡形状の関係を解析した結果,歩行相の周期のうち初期接地から立脚終期までの位相で、歩行相ごとに両者の関連に違いがある事がわかった. また,絶滅鳥類の歩行姿勢を復元する手法の確立のため,現生鳥類の骨学的特徴と行動様式の関係を調べた.動物園等で行った歩行時のビデオ映像に基づく後肢の姿勢の分析と,フォトグラメトリとマイクロCTスキャナから得られた後肢骨格の三次元モデルの形態解析,および歩行実験から得られた足跡形状から,行動様式と関連の深い形態形質を探している様々な系統の現生鳥類について多くのデータを集めた.これらの結果である,現生鳥類の骨学的特徴と行動様式の関連を絶滅動物の足跡形状に適用し,その姿勢について推定したが,それらの骨格構造(特に関節)から考えると,姿勢の復元に疑問が出てきた.今度は,関節にかかる力について調べるため,骨学的特徴に加えて筋肉的特徴も考慮し,手法の試行錯誤を行い標本作成を主に行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の目標の1つは,絶滅鳥類の重心位置を足跡の形状から推定することである.Peter Falkingham博士の研究室で学んだ骨格をフォトグラメトリにより電子データとして得て,ソフトウェアを用いて肉付けを行う方法を2つ実施し、そこから重心位置を見積もる手法を試したが,鳥に対しては非常に誤差が大きく,値の信頼性が低い事がわかった.この手法では,重心位置を見積もる事が難しい事がわかったので,次年度にWilliam Sellers博士の研究室で鳥類の歩行シミュレーションから重心位置を推定する手法を試みる予定である. 研究課題のもう1つの目標は,現生鳥類の骨学的特徴と行動様式の関係から,絶滅種の歩行姿勢を復元する方法を確立する事である.昨年度から今年度にかけて,後肢の骨の形状モデルのモデルを作成し,それをビデオ撮影から得た後肢の姿勢と足跡形状とから評価を行った.陸鳥や渉禽類等以外の鳥類については,歩行する事がほぼないので(本研究では歩行は真っすぐに8歩以上歩く事と定義している)現在陸鳥と渉禽類とのデータについてまとめている.今後は後肢の骨の形状モデルを広い系統の鳥類で収集する.現在一部の鳥類についてからは,その動き方の違いはモデルに反映されているので,今後関節の理論形態モデルを作成し比較して行く予定である. 上記の成果について現在論文を2本分執筆中で,今年度は解剖学データや骨の形状モデルの収集を行っていくことで,予期せぬ重心位置の計測の難しさで,これまで行った経験のない分野の手法を探らざるを得ず,技術の習得や,力学や解剖の知識の習得等にもより,本年度の予定は遅れてしまったが,本研究課題の具現化のためには,鳥類そのものを使用するという解剖学データの収集は非常に信頼度の高いデータであり,これを足跡形状とあわせると目標達成は可能であると評価できる.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は,初年度から試みている現生鳥類の歩行における重心位置をシミュレーションにより連続的に見積もる.この重心位置は,歩行相ごとに見積もる.算出したそれらの値と,足跡形状との関係を調べる.現生鳥類の歩行時の脚の姿勢は生活型毎に異なるが,脚の姿勢とは関節の屈曲の最小と最大具合で変わるので,これが後肢のバランスに深く関わる.作成した標本から,後肢の各関節が耐えられる最大の力を見積り,その値とまた足跡形状との関係を調べ,歩行の過程でその動きを支配している筋肉群(腱群)を調べる.(昨年度に続き,さらに30種の鳥類の後肢を解剖して,そのそれぞれの関節について骨格+腱付き標本を作製する.その標本の最大モーメントアームの値を求めるのであるが,映像を使い2次元的に計測を行う.標本を作製する場所であるが,日本よりも,より鳥類の死体の収集がしやすい英国のWilliam Sellers博士の研究室を予定している.この手法とともに,骨の特徴から関節の最大モーメントアーム値を見積もるため,後肢の骨を,足根中足骨,脛骨,第Ⅲ指骨の順にデータを,国立科学博物館のマイクロCTスキャナーで撮影を行い,骨の三次元データを得る.)後肢の各関節における滑車級の形態を調べる.現在一部の鳥類について,固有の動きの特徴の違いが,軌跡に反映されているようであるので,それと滑車級との特徴を詳しく解析する.手法は幾何学的形態解析のランドマーク法を用い相対歪み解析を行う予定である.以上の研究と合わせて,野外で鳥類のロコモーションである歩行,遊泳,飛行等のビデオ撮影を積極的に行っていく.
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Research Products
(1 results)