2018 Fiscal Year Annual Research Report
ヒトの歌唱における聴覚フィードバックメカニズムの解明
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17J03679
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
鳥谷 輝樹 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 気導音声 / 骨導音声 / 伝達特性 / 側頭部 / 外耳道 / 知覚的割合 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は,ヒトの発話・歌唱における聴覚フィードバックにおいて気導・骨導音声知覚のそれぞれが担う役割を明らかにすることを目的としている.この達成のため,当該年度では骨導音声の中でも声道内の圧力伝搬を経て聴覚系に伝達される過程に着目し,発話器官から聴覚系に至るまでの骨導音声の伝達特性の調査および知覚的検討を行なった.具体的項目として,1. 口腔内の音源を用いた骨導伝達特性の測定装置の構築,2. 口腔内の音源を用いた骨導音声の伝達特性の測定,3. 聴覚フィードバックにおける気導・骨導音声の知覚的割合に関する検討の4点を遂行した. 得られた具体的成果は次の通りである.1. 参加者5名に対する骨導伝達特性の測定装置が構築できたこと,2. 硬口蓋から側頭部に至る経路では 1 kHz未満の周波数成分を強調する伝達特性を有する一方で,硬口蓋から外耳道に至る経路では,3 kHz付近の周波数成分を強調する伝達特性を有することを明らかにしたこと.3. 聴覚フィードバックにおいて,気導・骨導音声はそれぞれ約7:3の割合で知覚される可能性が高いこと.項目3. については,限られた人数と条件でのみ得られた成果であり,継続して検討する必要がある. 当該年度で得られた骨導音声の諸特性および知覚特性に関する成果は,最終年度に行う発話・歌唱時の聴覚フィードバックメカニズムのモデル化に向けて「如何なる音響的特徴がどのような経路から,どの程度伝達されるのか」を明らかにするために不可欠なものである.さらに,本成果は従来の骨導音知覚に関する知見を,音声生成機構に着目する形で拡張するものである.したがって,本研究に限らず,骨導音声を用いた音声コミュニケーション支援の実現に向けて非常に資料的価値の高いものである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」に記載した実施内容 1. 口腔内の音源を用いた骨導伝達特性の測定装置の構築,2. 口腔内の音源を用いた骨導音声の伝達特性の測定,3. 聴覚フィードバックにおける気導・骨導音声の知覚的割合に関する検討 のうち,項目1. は交付申請書に記載する研究計画から見直しが行われ,加えられたものである.この理由として,口腔内から骨導伝達特性を測定する際には信号呈示用スピーカーおよび信号観測用のマイクロホンを測定参加者の口腔内の定められた位置に固定する必要があり,専用の測定機器を自作する必要が生じたためである.本項目において,当初想定していなかった海外渡航(関連研究機関での情報収集)および装置の構築を行ったことにより,項目2. および3. の実施に若干の遅れが生じた.この影響により,項目3. の成果は現在,限られた人数と条件でのみ成果が得られており,最終年度の序盤に継続して検討する必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,これまでに得られた骨導音声伝達に関連する複数の伝達特性を総合し,気導・骨導音声の特性をそれぞれ一定の割合で有する音声を用いて聴覚フィードバック中の気導・骨導音声の知覚的な割合について詳細に検討する.検討結果を踏まえ,気導・骨導の伝達経路の違いを考慮した聴覚フィードバック機構について考察する.今後の具体的な検討項目は次の通りである. まず,気導音声・骨導音声それぞれの周波数特性を考慮した音声刺激を作成するために,前年度までに測定された骨導音声伝達に関連する複数の伝達特性を用いてフィルタを構築する.実測された伝達関数を実現するようなフィルタ設計を行い,話者の気導音声に対してフィルタリングを施すことにより骨導音声と同様の特性を有する音声刺激を作成する. 次に,聴覚フィードバックにおいて気導・骨導音声がそれぞれどの程度の割合で話者に知覚されているのかを明らかにするため,1. で構築したフィルタを用いて変形された音声刺激の音色に関して主観評価実験を行なう.気導・骨導音声の周波数特性を有する音声をそれぞれ一定の割合で混合させた刺激を聴取させ,話者自らが知覚する音声に音色が近づくように混合比を調整させることにより知覚的割合を決定する. 最後に,骨導音声の伝達関数の測定および知覚的側面の検討結果を総合し,気導・骨導音声のそれぞれの伝達を考慮した発話・歌唱時の聴覚フィードバック機構のモデル化を試みる.本検討項目をまとめ,研究の完成とする.
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