2017 Fiscal Year Annual Research Report
ミトコンドリアにおけるDJ-1の機能解析からパーキンソン病の謎に迫る
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17J03737
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小島 和華 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | パーキンソン病 / ミトコンドリア / ミトコンドリア品質管理 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の研究から、ミトコンドリアの品質管理機構の破綻がパーキンソン病の発症に関与することが示されている。本研究では、遺伝性パーキンソン病原因因子であるDJ-1のミトコンドリアとの関連や機能解析をきっかけとして、ミトコンドリア品質管理機構、そしてパーキンソン病発症機構の解明に迫ることを目指す。 DJ-1は、特定の一残基変異によりミトコンドリアへと局在することがわかっているが、典型的なミトコンドリアタンパク質の性質に当てはまらず、その局在メカニズムや意義は未解明である。本年度は、そのような例外的な性質のDJ-1に対し、あえて「典型的なシステムと同様にN末端側配列が重要である」という仮説を設定して実験を行い、最終的に、非典型的ながらもDJ-1独自のシグナル配列に基づいた輸送メカニズムを示すことができた。これは、ミトコンドリア移行の意義を考える上でも重要な知見となる。 DJ-1の機能解析において、代表者の所属研究室では、試験管レベルでの解析を進める中で、生体内で合成される有害物質を基質とする酵素活性を見出すことに成功し、論文として報告した(Matsuda et al. 2017 Sci Rep.)。これらの知見を基礎とし、さらに個体レベルでの解析を展開すれば、疾患と関連した機能の議論につなげることができる。本年度、パーキンソン病研究において広く用いられるモデル生物:ショウジョウバエに着目し、基本的な実験系を立ち上げることができたので、次年度以降、本格的に始動させる。 また、ミトコンドリア品質管理に関わる因子の網羅的探索を行ったところ、DJ-1等のパーキンソン病関連因子を見出すことはできなかったが、未報告の新規因子を同定することに成功した。これは、ミトコンドリア品質管理の分子メカニズム解明を目標に掲げる本研究の可能性を大きく広げる成果であり、今後はDJ-1と同時並行的に解析を進めたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は「DJ-1のミトコンドリア移行メカニズムを明らかにすること」、「DJ-1の分子機能を個体レベルで解析すること」の2つを短期目標にした。 DJ-1のミトコンドリア移行メカニズムに関しては、培養細胞を用いた実験により、DJ-1上に潜在的に存在するミトコンドリア移行シグナルを同定することに成功した。DJ-1のミトコンドリア移行パターンは典型的なミトコンドリアタンパク質の様子とは異なる点が多く、DJ-1のN末端領域は典型的な移行シグナルの特徴とは一致しないという事実を認めながらも、非典型的なシグナル配列が存在するという仮説を設定し、それを自ら実験により実証できたことは、大変大きな進捗である。 DJ-1の分子機能については、試験管レベル及び培養細胞レベルの解析により、生体内で恒常的に合成される有害物質を基質とする酵素活性についての報告をまとめることができた(Matsuda et al. 2017 Sci Rep.)。加えて、年度初めの研究実施計画の通り、今後本格的に展開したいと考えている個体レベルの解析のため、パーキンソン病研究において広く用いられるモデル生物:ショウジョウバエの飼育条件を整え、基本的な実験系を立ち上げることができた。これらの点から、DJ-1の分子機能解析についても、順調な進捗状況と考えている。 また、当初の研究実施計画には盛り込んでいない内容であるが、ミトコンドリア品質管理機構とより直接的に関連する範囲で研究を展開させるべく、ミトコンドリア障害条件下でミトコンドリア周囲に集積する因子を調べるスクリーニング実験を行った。結果、パーキンソン病関連の因子を見出すことはできなかったが、未だ報告のない新規因子を同定できたことは、本研究の可能性を広げる大きな進捗である。 以上の点を踏まえ、今年度の本研究課題の進捗状況について、「当初の計画以上に進展している」と評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究結果より、DJ-1には潜在的に、非典型的なミトコンドリア移行シグナルが存在することが明らかになった。しかしそうであれば、ある特定の変異体だけでなく、野生型を含むすべてのDJ-1がミトコンドリアに移行してもよいはずである。実際は、野生型のDJ-1は潜在的なミトコンドリア移行シグナルを持ちながらも、通常条件では完全に細胞質局在であることが実験によって示されている。特定の変異体でのみ、シグナルとして機能する理由は何か。これまでの結果から考えられる、「DJ-1自身の構造安定性の変化によるシグナルON/OFFの制御」という仮説の実証を目指したい。 DJ-1の分子機能については、今年度は主に、大腸菌、及び一般的に用いられるヒト癌由来の培養細胞系を用いた解析を行ってきた。次年度以降は、神経由来の細胞株や個体での実験に積極的に取り組みたい。特に、今年度立ち上げたショウジョウバエを用いた実験系を本格的に始動させることに力を入れ、DJ-1の欠損が個体に与える様々な影響を網羅的に観察することで、DJ-1の本質的な機能について考える。 また、研究計画にも掲げたように、「パーキンソン病の謎に迫る」ためには「ミトコンドリア品質管理機構の解明」が必要不可欠と考えている。そのためには、スクリーニング実験で同定された新規因子についても、精力的に取り組むべきと考えている。当初の研究実施計画には無い内容となるが、DJ-1に注目した解析と同時並行的に進めていきたい。 以上のように、当初の研究計画に沿った「DJ-1のミトコンドリア局在メカニズムとその意義の解明」、「DJ-1の本質的な機能の解析」を中心に研究を展開させると共に、研究進展によって得られた新しい視点を組み合わせ、それらを総合して最終的な大きな研究目標である「パーキンソン病の発症機構の理解を目指す」ことを、今後の研究の推進方策とする。
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Research Products
(3 results)