2017 Fiscal Year Annual Research Report
社会敗北性ストレスによって分泌されるタンパクを介した新規ストレス制御機構の解明
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17J03783
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
大塚 愛理 徳島大学, 大学院 医科学教育部, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 社会敗北性ストレス / ストレス制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
心理社会的ストレスはエネルギー代謝に変化を与える。末梢で産生されるエネルギー代謝に関連するタンパクであるFは、脳での作用も確認されている。先行研究によって社会敗北性ストレス(SDS)負荷3日後に血中F濃度が顕著に上昇すること、この上昇がストレスホルモンである血中コルチコステロン濃度の変化と一致していることを明らかにした。そこで本研究は、ストレス負荷で惹起されるFの分泌がコルチコステロンと並んだストレス制御に関与しているという仮説を立て、その機序およびストレス制御におけるFの生理学的役割を解明することを目的とした。 平成29年度はストレス誘発性の血中F濃度の上昇を担う主要産生臓器の同定、および、ストレス応答に関与する自律神経系・HPA軸系の受容体の薬理学的阻害がF産生・分泌に与える影響を調べた。 3日間のSDS負荷後に既知のF産生臓器を採取し、各臓器におけるFのmRNA発現をRT-PCRで測定したところ、肝臓においてのみ有意にFの発現が増加した。したがってストレス誘発性Fは肝臓由来であると考えられる。 アドレナリン受容体阻害薬であるαブロッカー及びβブロッカーを腹腔内投与した後にSDS負荷した実験において、肝臓におけるF産生レベルとSDS負荷による血中F濃度の上昇がαブロッカーとβブロッカーで逆相関を示した。したがって、ストレスによる交感神経刺激はアドレナリン受容体を介したFの分泌制御に関係している可能性が示唆された。 グルココルチコイド受容体阻害薬(RU-486)を腹腔内投与した後にSDS負荷した実験において、RU-486投与群はSDS負荷を行っていない群で社会回避行動が観察され、SDS負荷により改善した。したがってHPA軸が行動に影響を与えることは明らかになったが、Fとの関連性についてはまだ未検討である。これらの群における血中F濃度などの早急な分析が求められる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではこれまでに、ストレス誘発性のF主要産生臓器を明らかにし、F産生・分泌刺激の所在を明らかにするべく実験を行ってきた。ストレス応答に関係する機構としては交感神経系およびHPA軸系が挙げられる。そこでこれらの活性で放出されるホルモンの受容体を薬理学的に阻害することで、F産生・分泌およびストレス行動に変化が現れるかどうかを検討した。Fの血中濃度と行動の関連については想定外の結果も見受けられたが、今後の研究課題につながる成果でもあった。 現在は計画書に記載した神経や副腎の物理的阻害実験に向けての手技の確立に尽力している。本年度の成果は研究計画書に記載した5項目のうち3項目に相当するものであり、本研究はおおむね当初の計画通り進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の成果により、ストレス刺激はアドレナリン受容体を介してFの産生・分泌を変化させ、ストレス誘発性の行動にも変化を与える傾向が確認された。また、グルココルチコイド受容体を介した行動の変化も観察されたが、Fとの関連性については未検討である。次年度はグルココルチコイド受容体阻害が血中F濃度及び肝臓F産生に与える影響を検討し、アドレナリン受容体阻害の結果と統合してF産生・分泌に関与するストレス刺激を明らかにする。グルココルチコイド受容体阻害に関しては、受容体阻害自体が行動に大きく影響を与えている可能性が示唆されたので、ストレス負荷による急激な血中コルチコステロン濃度の上昇を阻害するためには、副腎切除を施した後のストレス負荷の影響を検討する必要がある。 現時点でFがストレス行動に拮抗する存在なのか悪化を促す存在なのかの判断は難しい。しかしながら、FはBBBを通過して脳に到達することが明らかになっている。そこで次年度はFの中枢作用に焦点をあて、ストレス誘発性の血中F濃度の上昇が中枢を介して行動を変化させる可能性について検討することで、ストレス負荷によるFの分泌機構、及びストレス制御におけるFの生理学的役割の全容の解明に挑む。
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