2017 Fiscal Year Annual Research Report
LHCの結果及び自然性問題が示唆するプランクスケール物理の解明
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17J03848
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
川名 清晴 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 自然性問題 / ヒッグス / 繰り込み群 |
Outline of Annual Research Achievements |
私は今年度自身の研究課題「LHCの結果及び自然性問題が示唆するプランクスケール物理の解明」に関連して、2つの論文を発表した。 [1]ではヒッグス粒子がプランクスケール近傍で非自明なポテンシャルの形を持つことをモチベーションに、インフレーションの新たなモデルを考察した。一般に何らかのスカラー粒子(インフラトン)が高エネルギーで別の真空を持つ場合に、その粒子と重力との相互作用を考えることでインフレーションが高エネルギーの真空のまわりでも実現可能なことを示した。特に、インフレーション後にスカラーは低エネルギーの真空へと自然に落ちていくので、ヒッグス粒子をそのインフラトンとしても問題ない。場の理論を超えた様々な考察[2]より別の真空の存在は自然であると考えられており、我々の結果はそれらと矛盾しない。 続いて[2]では場の理論の繰り込み群に関する問題を考察した。一般に摂動論に基づく計算を行うと、有効作用にはlog(m2/μ2) (m:粒子の質量, μ:繰り込みスケール)を含む項が表れ、質量が複数ある場合には繰り込み群によるimprovementは難しいと考えられていた。我々はdecouplingに基づく議論を波動関数繰り込みも正しく扱うように定式化することで、それが可能であることを示した。結果として得られる有効作用は、これまでの不完全な議論から得られるものと定性的にはそれほど変わらないが、定量的には理論のパラメータ次第では大きく変わり得る点で重要である。 [1] Kiyoharu Kawana and Katsuta Sakai, Phys.Lett. B778 (2018) 60-63 [2] Satoshi Iso and Kiyoharu Kawana, accepted by JHEP
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
LHCによって発見されたヒッグス粒子の質量は、そのポテンシャルが高エネルギーで別の真空を持つ可能性を示しており、近年その事実に基づいた現象論的研究やその起源に対する理論的研究が盛んに行われている。私の研究課題の目的はその起源を両方のアプローチを使って明らかにすることにある。研究[1]は現象論からのアプローチによる研究であり、ヒッグスに限らず一般のスカラー場に対し別の真空の存在はインフレーションと矛盾しないことが分かった。インフレーションを実現することは、素粒子宇宙論ではモデル考察の上では必須であり、別の真空の存在がそれとconsistentであると分かったことは1つの成果である。また研究[2]も現象論からのアプローチであるが、このような繰り込み群のimprovementはcouplingのrunningが顕著になる高エネルギーほど重要になり、それは転じてプランクスケール近傍でのヒッグスポテンシャルの振る舞いに大きく影響を与える。従って、真空の安定性を定量的に議論する際にも我々の扱いは必須であり、様々な現象論モデルへの応用が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
プランクスケール近傍にあるヒッグスポテンシャルの別の真空は、標準模型のパラメータ次第では我々の住む真空と縮退する(=同じエネルギーをもつ)可能性があることが分かっている。そもそも別の真空の存在自体が場の理論においては非自明であるが、そのような縮退性も熱統計力学的な考察により自然であることが近年の研究で分かってきた。熱力学において、そのような縮退した状態は異なる相の共存に相当するので、ヒッグスポテンシャルの縮退した真空は相転移点に相当することが分かる。このような対応関係は自然であり、ミクロカノニカルの立場からこれを議論している先行研究もあるが、非常に形式的な理論であるためその物理的意味がはっきりせず、まだ納得のいく理論は出来上がっていない。我々の次の目標はそのような理論の構築である。その最初のステップとして、場の理論においていきなり統計力的な見方をするのではなく、まずは統計力の方で場の理論、特に繰り込み群のような見方に基づいて状態方程式などの熱力学量を考察したいと考えている。このような見方がうまくいけば、場の理論において何を熱力学的パラメータにすれば良いかが分かり、統計力学的な考察が可能になる。最終的には、ヒッグスポテンシャルの真空を議論することにとどまらず、場の理論および統計力学を統一的に扱えるような理論的枠組みを作るのが目標である。
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