2018 Fiscal Year Annual Research Report
LHCの結果及び自然性問題が示唆するプランクスケール物理の解明
Project/Area Number |
17J03848
|
Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
川名 清晴 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
Keywords | 自然性問題 / 標準模型 / 統計力学 / 繰り込み群 / 古典液体系 |
Outline of Annual Research Achievements |
私は今年度、自身の研究課題「LHCの結果及び自然性問題が示唆するプランクスケール物理の解明」に関連して、1つの論文を発表した。Higgs粒子の発見により素粒子物理学において標準模型が基礎理論としての地位を確立したが、我々の世界では標準模型でも解決の難しい問題が数多く存在する。特に宇宙項問題をはじめとする自然性問題は場の理論の枠組そのものが不十分であることを意味しており、それを超えた理論や新しい考え方が必要である。これまでの自身の研究により、統計力学におけるミクロカノニカル分布の考え方を場の理論に適用することで、いくつかの自然性問題が解決出来る可能性が分かっていたが、その定式化はまだ不完全であり、特に熱・統計力学との間の様々な対応関係(熱力学変数に対応するものは何か?等)が不鮮明であった。それを明らかにするために、まずはよく知っている統計力学の方で場の理論の最も重要な考え方である繰り込み群の見方を考察した。具体的には相互作用する古典液体系に着目し、場の理論と同様にスケール変換を考えることで一般の相関関数の間に成り立つ新しい厳密式=Density renormalization group equations (DRGE)を導出した。我々の方程式系においては、場の理論の繰り込みスケールに密度が対応しており、定性的には高密度になるにつれて多体の相関関数の寄与が重要になる形をしている。従って、この方程式系を物理的に妥当な近似のもとで解くことができれば、通常は解析が難しい高密度における液体・固体の様々な性質を議論出来ることが期待される。このような研究は純粋に統計力学の研究という側面だけでなく、将来的には上で述べたように素粒子や化学分野への応用も十分期待される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」でも述べたように、私のもともとのモチベーションは場の理論における自然性問題解決を統計力学の立場から試みることであった。自身のこれまでの研究により、そのような見方がいくつかの限られた問題に対しては出来ることは分かっていたが、より一般の場合にどう理論を展開していけば良いのかが分からなかった。それに対し、今年度の研究により統計力学の方で場の理論の繰り込み群的な見方が可能であることが分かり、特に新しく得られた方程式系においていくつかの対応関係(密度と繰り込みスケール、相関関数とカップリング定数など)が明らかになった。このような見方が可能であろうことはある程度予想していたが、具体的な統計力学の古典液体系で示せるとは予想しておらず、当初の計画以上に進展していると言える。また、DRGEの導出自身にも場の理論の手法を用いており、この研究を続けることで場の理論と統計力学の背後にある対応関係がより理解出来ると期待される。
|
Strategy for Future Research Activity |
我々が得たDRGEは相関関数に対する厳密な式であり、また一般にn点相関関数に対する微分式にn+1点関数が含まれるため、それを一般的に解くことはもちろん出来ない。従って、実際には相関関数に対する何らかの近似をしなければならないが、一番簡単な近似は多点の相関関数を理想気体のものにおく近似である。これは密度が非常に大きくなると悪い近似になると予想されるが、我々の方程式系では2点や3点の相関関数の寄与は厳密に取り入れられているため、たとえミクロなポテンシャルv(r)自身が短距離でも、2点や3点の繰り込み(場の理論で言うと1PI diagramを無限個繋げたもの)によって長距離力が生じると期待される。現在、まずは3点相関関数以上を理想気体においた場合を解析中であり、そこから液体論で知られているような(低密度における)2点相関関数に対する振る舞いが得られるかどうかが最初の興味である。仮にそれが得られない場合、3点相関関数以上の寄与が本質的に重要であることを意味するが、我々の方程式系はそれらもsystematicに取り入れていくことが可能である。もちろん、次の段階としてはこのような研究により得られた知見をもとに、場の理論におけるミクロカノニカルの見方を具体的に定式化し、自然性問題へ応用することが目標である。そして、可能であれば弦理論などの量子重力理論との関わりや統一も議論したい。
|