2017 Fiscal Year Annual Research Report
生体内の環境変化に応答する多機能分子プローブの開発と病的組織のイメージング
Project/Area Number |
17J03866
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
梅原 由衣 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 分子イメージング / 癌 / 光音響イメージング / ナノ粒子 / 低酸素 / 分子プローブ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、疾患による生体内での様々な環境変化について、疾患特徴的な「質的・機能的」情報を画像化するための新規多機能分子プローブの開発を行っている。平成29年度は、(1)多孔性シリカナノ粒子の細孔内部に配置したチオール基に、「りん光発光性ルテニウム錯体」を化学的に固定化し、高い酸素濃度応答性を維持しつつ、細胞毒性を示さない新しいナノ粒子プローブ MSN-Ru の合成に成功した。また、本プローブをヒト子宮頸がん由来HeLa細胞に投与した結果、酸素濃度に応答した強いりん光発光を観測した。また、本プローブをマウス下肢に投与した後、下肢上部の結紮による急性期低酸素環境において、本プローブ由来の発光強度が増大することを確認した。 次に、(2)癌細胞のリソソーム内pH変化に応答する低分子型近赤外蛍光色素プローブの設計と合成を行った。さらに、本プローブを細胞に投与した結果、リソソーム内に局在すること、および抗癌剤投与によるリソソーム内pH変化に対応して、光音響信号、および蛍光発光シグナルの強度がいずれも変化することを明らかにした。従って、本プローブは、光音響イメージング、および近赤外蛍光イメージングのいずれにも有効な多機能分子プローブである。なお、本低分子型プローブは、生体内投与後は、血中アルブミンと強く結合し、高分子型プローブとして機能することを想定しており、さらなる構造最適化を行う。 さらに、(3)ポリエチレングリコール鎖で表面修飾した金ナノロッドに、2-ニトロイミダゾール基を導入し、癌低酸素領域を可視化する光音響イメージングプローブG-NIの合成と機能評価を行った。本プローブは、低酸素環境で培養した細胞に選択的に取り込まれること、および担癌マウスに尾静脈投与すると効率的に癌低酸素領域に集積することを光音響イメージングにより明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通りに進展している。Ru錯体を有するメソポーラスシリカナノ粒子の合成とその機能評価について研究を進めているが、合成手法の確立と共に、ヒト子宮頸がん由来のHeLa細胞において、酸素環境に応じてりん光強度の増減が見られること、およびマウス下肢結紮における虚血モデルを利用した生体内での低酸素応答を可視化することに成功した。また、リソソームpH応答型プローブに関しても、細胞内での局在評価やpH応答性に加え、生体内でのリソソームpH応答を可視化する可能性が示唆された。従って、現在までに本年度の実施計画・目標を全てクリアしており、さらに、これらの知見を基に、2-ニトロイミダゾール基を導入した金ナノロッドプローブの合成、および励起光を必要としない新しい化学発光プローブの高機能化にも着手しており、当初の計画以上に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
低酸素環境を可視化するりん光発光性ルテニウム錯体ナノ粒子プローブMSN-Ruを用いる急性期の生体内低酸素環境の可視化に成功したことから、今後は、癌周辺領域の慢性的な低酸素環境の可視化を目指す。具体的には、ナノ粒子のサイズ、ルテニウム錯体の固定化法、および表面修飾について最適化を行い、より生体適合性に優れた(毒性を示さない)高度機能性プローブの開発を行う。さらに、MSN-Ruプローブに、酸素濃度の影響を全く受けない参照近赤外蛍光色素を導入し、生体内酸素濃度のレシオメトリックイメージングの可能性を明らかにする。 一方、光音響/近赤外蛍光イメージングに有効なリソソーム内pH変化に応答する新規プローブについては、血中アルブミンとの相互作用の増大を目指した構造最適化を行う。また最適化したプローブについて、担癌マウスでのEPR効果の発現を確認するとともに、抗癌剤の早期薬効判断への応用について検討する。
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