2018 Fiscal Year Annual Research Report
イラン・ヴァルザネ市における水危機―河川流域における生業の維持と変容からの検討
Project/Area Number |
17J03911
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
西川 優花 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 1 / 水利慣行 / 農牧複合社会 / コモンズ / 生態知 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、イランはエスファハン州を貫流するザーヤンデルード川下流域に位置する地方農村都市であるヴァルザネ市を対象とし、2000年頃から当地において長期化している旱魃の問題とその影響、また、長期的な水不足に対応する人々の生活や生業のありさまについて、そこに暮らす人々の生活・生業というミクロの視点に立ちながら水の問題をめぐって生じる社会のダイナミズムを読み解くことを目的としている。報告者は平成30年度、前年度に引き続き文献調査および現地調査を遂行した。具体的な内容と成果は大きく分けて以下の2点にまとめられる。 1)長期的旱魃に対するヴァルザネの生業の対応 報告者はこれまでも生業の変容について調査を行ってきたが、今年度は特に牧畜業に焦点を当て現地調査を行った。調査では、季節ごとの家畜の放牧地や牧草の分類、家畜の売却先や売却要因、現地方言における家畜の分類法についてデータを収集した。上述のようなデータを収集した結果、ヴァルザネにおける牧畜業が、現地における農業と不可分の関係にあることが見えてきた。 2)コモンズ論の視点からみたイラン乾燥地域における水資源 近年の水量減少に伴い河川をめぐる流域間コンフリクトが発生しており、ザーヤンデルードを貫く公共性を構想するためにも、河川認識や灌漑をめぐる正当性について人々の認識の変容を明らかにする必要があり、伝統的水利慣行の変容についてデータを収集した。また、ザーヤンデルードの水量減少に対応すべく新灌漑水路の整備が進められ、今年度完成に至っており、現地調査では新灌漑水路と旧灌漑水路それぞれについて実際に水利権を有する人々を対象にデータを収集した。調査の結果、河川流域の一つの農村におけるザーヤンデルードの共有の形態が明らかになったほか、水利権を所有する人々にとっての「共有」の枠組みについても示唆が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画段階では、夏期および冬季に現地調査を行うことを予定していたが、現地資料の分析を重点的に行うために、夏期の現地調査は実施せず、冬季に集中して現地調査を実施した。現地調査では順調にデータを収集することができ、その成果は上述の通りである。 本年度にかかる研究成果は、学術論文1件(『イラン研究』)、国際学会1件(Association for Iranian Studies)、国内学会2件(日本沙漠学会、地域コンソーシアム)としてそれぞれ公表した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は本研究の最終年度として、昨年度の研究成果をさらに発展させながら学術論文・学位論文の執筆を進めるが、特にコモンズ論に立脚しながらイラン・ヴァルザネにおける長期的旱魃の問題を多面的角度から考察し、自然資源管理・利用をめぐる問題の解決の道筋を展望してゆく予定である。具体的には、今年度は以下のテーマに焦点を置きながら研究を行う。 (1)農牧複合社会としてのヴァルザネ:イラン乾燥地研究はこれまでも研究蓄積があるが、農業に注目したものや遊牧に個別に注目したものが多く、農牧複合社会を一つの単位として事例を扱ったものは多くない。ヴァルザネにおける生業連関に着目することで、イラン乾燥地域社会を新たな側面から見る手がかりになると考えられ、今年度もこの点について追加調査を行うことを予定している。(2)資源の持つ多面的側面・コミュニティ内部に多数存在する諸自然資源の利用・管理について:具体的には、扱う資源の範囲を河川水から広げ、井戸水や放牧地の利用についても事例を収集し、ヴァルザネをめぐる自然と人間との関わりをより重層的に描き出すことを目指す。なお、学位論文の執筆に向けた最終調査も研究成果の発表と並行して実施する予定であり、5月には日本中東学会・日本沙漠学会での研究報告を行うほか、学術論文の投稿も予定している。
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