2018 Fiscal Year Annual Research Report
非平衡輸送現象と流れの動的結合の解明:分子操作から分子整流へ
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17J03913
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
福山 達也 九州大学, 理学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 非平衡統計力学 / 輸送現象 / 流体力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
高分子水溶液中に加熱点を形成し動かすことで流動が発生することを見出し、その物理学的機構を明らかにした。水溶液中で局所的な温度勾配が形成されると、溶液の粘性低下と境界の熱膨張に伴う圧縮が生じる。動く熱源の下で熱拡散とそれらの効果を考慮した理論モデルを構築・解析し、駆動される流体の速度を導き出した。これによって温度勾配の動きと逆向きの流動が生じるメカニズムを明らかにした。さらに流動の速度が熱源の周波数に共鳴的、形成される温度差の2乗に比例することを実験的に検証した。これらの研究成果はSoft Matter誌に掲載されている。 本年度、我々は上記の流体力学モデルから得た、動くポテンシャル勾配に駆動される‘流れ’の描像が上皮細胞の集団運動に適用できると着想した。近年の研究である種の上皮細胞が細胞間シグナルの伝搬によって駆動されることが明らかにされた。流体力学モデルの熱源を細胞間シグナルを伝搬させるタンパク質に置き換え、シグナルに誘起される時間遅れを伴った細胞の収縮と基板との接着の変化を考慮することで細胞の集団運動を説明することができた。具体的には、シグナルによって細胞が活性化した状態になるとアクトミオシンや焦点接着斑キナーゼなども活性化され、収縮力・接着斑のターンオーバーが励起される。このとき接着状態の変化が細胞の収縮よりも早く起きることで、収縮による動きの対称性が破られシグナル伝搬に沿った一方向の集団運動が実現される。理論モデルから細胞集団運動の速度も予測でき、光によってシグナルを人工的に伝搬できるよう遺伝子組み換えした細胞を用いて、実験による集団運動速度のシグナル伝搬速度依存性・シグナル強度依存性が理論モデルのものと一致することを確かめた。現在、残りの実験データの解析と研究成果をまとめ、論文投稿の準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目に高分子水溶液中で動く温度勾配下で発生する流動を理論的に解析し、実験による検証から流動のメカニズム解明に成功した。我々は動く温度勾配とは逆向きに流動が発生することが、上皮細胞が伝搬するシグナルを遡るように集団運動する現象と温度勾配下で駆動される流動現象が類似していることに着目した。流体で考えた動く熱源の下での熱拡散や粘性変化、溶液の圧縮を、細胞集団のシグナルや摩擦、細胞の収縮と置き換えることで理論モデルを応用して細胞集団運動をあらわすことができると着想した。具体的にはシグナルによって細胞内部にあるMAPキナーゼのERKが活性化すると細胞-基板間の接着の減少・収縮力の増加が誘起される。それらがシグナル到達から時間遅れを伴って起きることで細胞集団運動が駆動されることがわかった。さらに細胞集団が一方向に動くためには、接着の変化が収縮よりも早く起きることが重要で、その結果収縮による動きの対称性が破れシグナルの伝搬方向とは逆向きに動くことが明らかになった。理論モデルによって予測された、細胞集団運動速度のシグナル伝搬速度依存性・強度依存性を実験的に検証を行い、予測される速度が実験と一致することが確かめられた。この研究成果の論文投稿の準備を進めているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、これまでに得た理論モデルの一般化を目指し熱硬化性の高分子を用いた実験による検証を行う。高分子水溶液中では局所的に加熱したところでは粘性が下がるが、加熱点で粘性が高くなる系では先とは逆向きの流動が生じることが本研究の流体力学モデルから予測される。粘性の温度依存性が異なる系において、理論モデルから示唆される流動を検証する。 粘性が加熱点で高くなる系として熱によって構造変化し硬化する高分子PNIPAMを水溶液中に分散し、動く温度勾配下を形成する。高分子PNIPAMは32度付近で構造が変化し、高温側では分子は収縮する。この分子をビーズ状にしたPNIPAMゲルビーズを溶液に封入し局所的に加熱すると、加熱点付近のビーズのみが収縮してサイズが小さくなる。溶液に十分量のビーズを入れておくことで加熱点では小さいビーズが高密度になることが予測される。このような領域ではビーズと流体の摩擦から流体が流れにくい、すなわち局所的に粘性が高くなる。この実験系を用いて、これまでの系とは粘性の温度依存性が異なる系で、動く温度勾配によって駆動される流動の解析を行い、理論モデルとの整合性を確かめる。その結果をもとに、動くポテンシャル勾配下で生じる流れの一般的な理論モデルの構築を目指す。
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Research Products
(7 results)