2017 Fiscal Year Annual Research Report
疾患特異的iPS細胞より作出したヒト脳スフェロイドを用いた神経発達障害の病理解析
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17J04183
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
小高 陽樹 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | iPS細胞 / 神経細胞 / オルガノイド / シアリドーシス / ライソゾーム病 / リソソーム病 / シナプス障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、中枢神経症状を伴うライソゾーム病であるシアリドーシスの患者iPS細胞から神経系細胞およびヒト脳スフェロイドを作出し、同疾患の神経病理学的異常を明らかにすることを目的としている。本年度は、まず、樹立した患者iPS細胞の染色体解析とテラトーマ形成能試験を行い、iPS細胞が正常な核型と三胚葉への分化能を有することを確認した。さらに、健常および患者iPS細胞から神経系細胞と脳スフェロイドを誘導し、以下の解析を行った。 1.2次元培養法によりiPS細胞から神経前駆細胞(NPC)への分化誘導を行った。患者NPCは、シアリダーゼ酵素活性の低下やシアリル化物質の増加、リソソームの肥大化といったシアリドーシスに特徴的な表現型異常を示した。続いて、NPCを神経細胞へ分化誘導し、神経細胞への分化効率、神経突起伸展能、シナプス形成数について解析を行ったが、健常群と疾患群の間に顕著な差は見られなかった。そこで、シナプスの機能に着目した解析を行ったところ、疾患群のプレシナプスにおいて、刺激依存的な開口放出が抑制されていることを見出した。以上の結果から、患者神経細胞では、シナプスの機能障害が生じていることが示唆された。 2.iPS細胞を神経分化条件下で3次元培養することで、脳スフェロイドを作出した。健常群の脳スフェロイドの形成・発達過程において大脳皮質層特異的なマーカー分子の発現量変化を測定したところ、時間依存的なNPCマーカーの発現減少と神経細胞マーカーの発現上昇が観察され、脳スフェロイドの発達が確認できた。そこで、このマーカー分子群の発現量を指標として、健常群と疾患群の脳スフェロイドを比較したところ、疾患群においてNPCマーカーの発現低下と大脳皮質下層神経細胞マーカーの発現上昇が認められた。このことから、シアリドーシスの脳スフェロイドの形成過程では、分化異常が生じる可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、患者iPS細胞の樹立を確認し、2次元培養系を用いた神経系細胞への分化誘導と3次元培養系を用いた脳スフェロイドの作出を行った。2次元培養系においては、解析を行うのに十分な純度の神経系細胞を誘導するのに成功し、疾患に関連した表現型の異常を発見した。3次元培養においても、健常群と患者群双方の脳スフェロイドを作出し、大脳皮質層のマーカー分子の発現異常を見出した。今後、こうした発現異常が細胞数の変化に起因するものなのか、組織免疫染色により確認する予定である。以上より、患者iPS細胞からの脳スフェロイドの作出と表現型異常の発見という本年度の主目標に達したため、おおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今回見出された患者神経細胞におけるシナプス障害に寄与し得る分子的異常の探索を行う。また、患者脳スフェロイドにおけるマーカー分子群の発現変動の実態を組織免疫染色等で詳細に解析する。さらに、これらの表現型異常が、シアリドーシスの原因遺伝子であるシアリダーゼの酵素異常に起因するものか調べるため、正常型シアリダーゼの遺伝子導入を行い、表現型異常が改善するか検証を行う予定である。
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