2018 Fiscal Year Annual Research Report
タイコグラフィ位相回復法の高度化と回折限界軟X線集光の実現
Project/Area Number |
17J04201
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
竹尾 陽子 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 軟X線 / 集光 / ミラー / 超精密計測 / タイコグラフィ / 波面計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
電磁波の一種である軟X線は軽元素に対して元素特異的な反応を示すという特性を持ち,材料分析や生体試料の構造解析に広く用いられている.軟X線ビームを狭い領域に集約する集光光学系は,解析の空間分解能や感度を決定する重要な要素である.回転楕円ミラーは,筒形状の内面を反射面とし,理論的には軟X線ビームをシングルナノメートルの領域に集光することができる優れた集光光学素子である. 実用的なミラーの開発において,最も大きな課題の一つは,反射面である筒形内面の高精度計測手法の確立である.本研究の目的は,軟X線を用いた回転楕円ミラーの集光性能及び形状誤差の評価手法を確立し,開発に寄与することである. 兵庫県の大型放射光施設SPring-8の軟X線ビームラインBL25SU-aの専用光学系において実験を行った.はじめに,この光学系において波長4.1, 3.1, 2.5, 1.2 nmの軟X線に対する回転楕円ミラーの集光性能評価を行った.その結果,いずれの波長のにおいても鉛直・水平ともに500 nm以下のサイズに集光可能であることが確認された.これはミラーによる軟X線集光サイズとして世界最小である. 集光ビームのより詳細な解析のために,同光学系においてタイコグラフィ計測を実施した.位相回復法の一種であるタイコグラフィは,照明ビームの複素波動場と測定試料の複素透過率分布を,反復計算を用いて同時に回復させるレンズレスイメージング手法である.集光ビームの波動場を解析し,現状のミラーの形状誤差を三次元的に計測した.結果は作製プロセスにフィードバックされた.さらに,同光学系を顕微鏡として運用し,その性能を評価した.薄膜上に作製したテストサンプルを前述の4種の波長で計測し,100 nmの最小線幅を明瞭に観察した. 本研究の成果は,実用的な回転楕円ミラーの開発を前進させ,最終的に軟X線解析技術全体の発展を促すものである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,軟X線を用いた回転楕円ミラーの集光性能及び形状誤差の評価手法を確立し,開発に寄与することである.平成30年度当初,①集光ビームの波動場計測を用いた形状誤差の測定②得られた評価値に基づくミラー作製プロセスの改良③回転楕円ミラーを実装した顕微計測システムの立ち上げを計画した. 実験は兵庫県の大型放射光施設SPring-8の軟X線ビームラインBL25SU-aにおいて実施した.この光学系において波長4.1, 3.1, 2.5, 1.2 nmの軟X線に対し,全長40 mmの回転楕円ミラーの集光性能評価を行った.その結果,いずれの波長のにおいても鉛直・水平ともに500 nm以下のサイズに集光可能であることが確認された. 集光ビームのより詳細な解析のために,同光学系においてタイコグラフィ計測を実施した.位相回復法の一種であるタイコグラフィは,照明ビームの複素波動場と測定試料の複素透過率分布を,反復計算を用いて同時に回復させるレンズレスイメージング手法である.集光ビームの波動場を解析した結果,現状のミラーは全長120 mmにわたって中心軸が300 nm以上撓んでいることが判明した(①).複数のミラーの形状を測定し,ミラー作製プロセスの計測手法に問題があることを明らかにした(②). 更なる発展として,ビーム評価用の光学系を顕微鏡として運用し,その性能を評価した.薄膜上に作製したテストサンプルを前述の4種の波長で計測し,幅100 nmの線構造を明瞭に観察した(③). 本年度の期待以上の成果は,新規光学系の道筋を立てたことである.回転楕円ミラーは筒形の形状を持つため最もフラックスの高い入射ビーム中央部を利用できない.これを解決するため,既に提案されているリング集光ミラーと,筒形形状を持つウォルターミラーを組み合わせた新たな光学系を設計した.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は,主にタイコグラフィ顕微鏡の発展に注力する. 第一段階として,大型放射光施設SPring-8ビームラインBL25SUに構築済みの顕微光学系の運用精度の検証を行う.現状の光学系は,時間安定性や位置決め精度,測定時間など多くの改善点が存在する.各項目に関して定量的な評価を行い,その結果に基づいて装置の置換や測定手順の最適化などに取り組む.第二段階として,具体的な被測定試料を用いて,本光学系の顕微システムとしての実用的な性能を評価する.これまでは薄膜基盤に形成したテストサンプルの観察を行ってきた.しかしながら,面内分解能や視野の広さ,測定結果の定量性などの実用的な顕微性能は,試料の物性や構造等に対する依存性が高いため,テストサンプルにおいて得られた性能の信用性は低い.開発した顕微システムに対して,磁性材料や薄膜の張り合わせ試料,生体試料などの多様な被測定物を挿入し,それぞれに対する現実的な顕微性能を検証すると同時に,今後の改善に関する指針を得る. 第三段階として,集光光学系の大幅な更新を行う.現在使用している回転楕円ミラーは,その中空形状ゆえに最もフラックスが高い入射ビーム中央部を利用できないという構造的な欠陥が存在する.これに対して,ビームをリング状に形成するためのリング集光ミラーを前段に挿入し,ビームラインの出射ビームを取りこぼすことなくすべて測定試料位置まで導くことが可能な二段集光光学システムが提案されてきた.ビームラインBL25SUにこのリング集光ミラーを追加することで,集光地点における100倍程度のフラックス改善が見込まれる.さらに,後段の回転楕円ミラーをウォルターミラーに変更し,設置角度精度を1000倍ほど緩和する. 以上の三段階を踏まえて,SPring-8に実用的な軟X線タイコグラフィ顕微システムの構築を目指す.
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Research Products
(3 results)