2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J04384
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
木戸 晶一郎 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | インド洋ダイポールモード / 塩分変動 / 海洋大循環モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は, 観測データ・海洋同化プロダクトの解析および海洋モデルを用いた数値シミュレーションによって, 熱帯インド洋における塩分の経年変動の特徴・メカニズム, およびそれが水温や海洋循環に与えるインパクトを明らかにすることを目指している.今年度は, まず観測データ・海洋同化プロダクトの解析によって既に得られていた結果を論文として出版した(Kido and Tozuka (2017), Journal of Climate).また, 領域海洋モデルROMSを用いたシミュレーションによって, 観測された塩分変動を再現することを試みた. 現実的な大気の境界条件でモデルを駆動し, 領域やパラメータなどの調整を行ったところ, 水温・塩分・循環の基本場に加え, インド洋ダイポールモード(IOD)に伴う表層および亜表層の変動を現実的に再現することに成功した. さらに, 塩分変動をもたらすメカニズムについて定量的に明らかにするため, モデルの出力結果をもとに塩分収支解析を行った. 得られた結果はIODに伴う海流の経年変動が, 水平・鉛直塩分移流を通じて偏差を作り出すという, 観測データの解析から得られていた結果と概ね整合的であった. 一方で, 3日毎の出力結果を解析したことによって(観測データでは月平均),「 短周期の擾乱が作り出す非線形移流効果が経年的に変調することによって塩分偏差を生み出す」という, 従来の粗い時間解像度のデータからでは捉えられなかった新たな物理プロセスを発見することができた.このメカニズムは, 塩分のみならず水温変動にも寄与していることも明らかになった. そこで, このプロセスについてさらに詳しく調べるために, 支配方程式を単純化した線形連続成層海洋モデルを構築し, 感度実験を行ったところ, 得られた偏差のパターンはROMSの結果とよく一致していた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度の計画において目指していた, 領域海洋モデルによる観測された塩分場の現実的な再現という課題は概ね達成することができた.また, その結果を用いて. 塩分変動をもたらす物理的なプロセスの相対的重要性についても定量的に示し, 従来着目されていなかった新たなメカニズムを見出すことに成功した.また, 線形連続成層モデルを用いた感度実験を通じて, このメカニズムの妥当性について物理的な裏付けを行うことができた.これらの結果は, 塩分変動のみならず水温変動についても新たな知見を与えるものである. 以上のことから, 今年度は当初の計画以上に進展していると考える.
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度に得られた成果を順次論文としてまとめ, 国際誌へと投稿する予定である.また, 新たな課題としては, 研究計画およびH29年度に得られた結果を踏まえ, 以下の3点を軸に行っていく予定である; (1) 各大気外力の塩分偏差への寄与の比較:塩分偏差の形成メカニズムについてはH29年度において概ね明らかになったものの, 降水量・風速・風応力といった大気の変動のうち, どのプロセスが重要なのかは未解明である. そこで, H29年度に準備した領域海洋モデルの設定・出力を元に, 各プロセスを切り分けた実験を行い, 各プロセスの相対的な寄与を定量的に評価することを目指したい. (2) 塩分変動の役割を明らかにする感度実験の実施:塩分変動が密度の鉛直勾配を変化させることで鉛直混合の強度を変え, 水温・海流に影響を与えることはH29年度に出版した論文で示されたが, 密度の水平勾配の変化がもたらす影響については明らかでない.そこで,H29年度に構築した領域海洋モデルおよび線形連続成層モデルを用いて感度実験を実施し,塩分が力学的な果たす役割についても注目していく. (3) 他海盆の塩分変動との比較:現在の領域海洋モデルの計算領域はインド洋熱帯域のみであるが, これを熱帯太平洋・大西洋などへと広げることで, 他の海盆における塩分の経年変動のメカニズムについても調査し,既に得られたインド洋の結果と比較することによって, それぞれの共通点・相違点を探り, 熱帯域における塩分変動についてさらに理解を深めていきたい.
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Research Products
(4 results)