2017 Fiscal Year Annual Research Report
注意ネットワーク理論に基づく注意の意図的制御メカニズムとその神経基盤
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17J04401
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
伊藤 資浩 北海道大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 注意 / 認知方略 / fMRI |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,認知的エフォートの意図的制御が注意を構成する3つの機能(警戒,定位,実行制御)及びその下位成分に及ぼす影響を検証することである。認知エフォートの意図的制御に関して,課題遂行時における二つの方略に着目した。一つが,従来の研究で暗黙の前提としていた最大限のエフォートを投じ,成績を最大限に引き上げる方略である。もう一つが,エフォートの投資を最小限にする方略である。段階的に研究を進めており,本年度は二つのプロジェクトを実施した。一つが,行動指標を用いて視覚的注意に意図が及ぶ範囲を特定した。もう一つが,fMRIを用いて認知エフォートの制御に関する基礎的な枠組みを構築した。 実験では,注意ネットワーク課題(ANT)及びその改良版(ANT-R)を用いた。この課題は,フランカー課題と視覚的手がかりを単一の課題に組み込み,注意の覚醒(反応への準備状態の生成),定位(特定の刺激に対する情報処理),実行制御(行動目標に関する反応選択)成分を行動指標で測定する。被験者は教示に従ってその課題に要するエフォートを調整するように求められた。 行動実験の結果,視覚的注意において被験者の意図が及ぶのは定位機能のみで,覚醒・実行制御機能に影響しない可能性を示唆した。また定位機能の下位成分である解放及び定位時間の効率が,積極的にエフォートを投じたときに比べて,その投資を抑制したときに向上する傾向が見られた。重要なことに,fMRIを用いた実験において,投資を抑制したときに左右頭頂側頭接合部及び内側前頭前野で有意な賦活が見られ,この賦活はDefault-modeの活動に類似していた。これらの結果は,エフォートの最小限の投資が注意の無意識成分を増大させ,定位機能及びその下位成分の効率を促進させたことを示唆している。本研究は,単に課題に要するエフォートを制御することが視覚的注意に影響することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は,(1) 行動指標を基に視覚的注意に意図が及ぶ範囲を注意機能の下位成分にまで限局して明らかにすること,(2) fMRIを用いて認知エフォートの制御に関する基礎的な枠組みを構築することを目的とし,2つのプロジェクトを進めていく予定であった。計画に変更はなく,2つの研究を予定通り実施することができた。(1)のプロジェクトに関して,視覚的注意に意図が及ぶ範囲が定位機能及びその下位成分である解放や定位時間に渡る可能性を見出した。ただし,(2)のプロジェクトに関して,解析を進めていくうえで,想定していた領域における賦活を確認できなかった部分があり,サンプル数が十分ではなかった可能性が確認された。しかし,(1)の行動指標の測定だけでは実証することができないDefault-modeの活動に関する知見は,今後研究を進めていく上で非常に重要な発見であると考えられる。そのため,進捗状況としておおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き,行動実験及びfMRIを基に注意の意図的制御を可能にする範囲を細かな注意の成分にまで限局して明らかにする。そして,学習や発達の基礎となる注意機構のユニークな測定法の開発に資する。ただし,これまでの知見だけでは,注意の意図的制御を可能にする成分を確認しただけで,そのメカニズムについては推測の範囲でしかない。すなわち,認知方略が定位機能やその下位成分に及ぼす変調の要因を特定することが必須である。そのため,別タイプの認知課題に及ぼす認知方略の影響を検証し,多角的な視点でそのメカニズムの解明にあたる。
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Research Products
(7 results)