2018 Fiscal Year Annual Research Report
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17J04689
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
木村 健登 神戸大学, 法学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | D&O保険 / 会社補償 / 取締役の責任制限 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実績の概要は、以下の通りである。 第一に、「会社補償と比較した場合におけるD&O保険の優位性」という観点からは、企業の倒産局面に着目した分析を行うことが有益である。倒産局面においては、企業は補償契約に従って補償を実施することが出来なくなるため、D&O保険によって与えられる保護が、この場合には一層重要となるためである。他方で、約款上の免責条項に該当する場合には、D&O保険による保護も否定されることとなる。典型的な免責条項の一つに「被保険者請求免責条項」があるが、倒産局面の企業の役員らが責任追及訴訟を提起された場合に、当該免責条項に該当することを理由として保険保護が否定される可能性はないか。以上の問題につき、米国を対象国とする比較法的分析手法を用いての検討を行った。【木村 健登:「倒産局面における企業の取締役とD&O保険による保護可能性―連邦倒産法Chapter 11と、民事再生法・会社更生法の比較を通じた分析―」損害保険研究 80巻2号 153-194頁(2018年8月)】 第二に、2019年1月に公表された「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案」において、会社補償およびD&O保険にかかる規律を会社法上に新たに設ける旨の立法提案がなされた。要綱案においては、会社補償については比較的厳格な規制が加えられることとなったのに対し、D&O保険については、いわゆるSide Bの部分が規制の対象から除外されることになるなど、規制の範囲は限定的なものとされた。もっとも、「経営陣による私的利益追求行為の抑止」という観点からは、Side AのみならずSide Bについても、会社法による規制の対象に含めるべきだといえる。以上の点につき、口頭での報告を行った。【[口頭報告]「D&O保険をめぐる近時の議論状況とその問題点」2018年度関西企業法研究会(2019年3月14日)】
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題にかかる研究は、現在のところ当初の計画以上に進展している。その理由は、以下の三点である。 第一に、研究課題の一部を構成するD&O保険につき、昨年度より進めていた「倒産局面におけるD&O保険の保護の在り方」というテーマにかかる研究を更に発展させ、業績を公表するに至った。 第二に、研究課題に関連する論文が「第8回 新日本法規財団奨励賞【会社法制分野】最優秀」を受賞するなど、研究内容およびその成果が対外的にも評価されている。 第三に、2019年1月に公表された「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案」を題材とした口頭報告を行うなど、研究テーマに直結する最新の問題にも対応し、適時のアウトプットを行うことが出来ている。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、以下の方針の下に研究を推進していくことを計画している。 第一に、新たに比較対象国としてカナダを追加することとし、同国においては会社補償およびD&O保険についてはどのような立法がなされており、またそれに関連してどのような裁判例および学説の蓄積が存在するのかについて、検討することとする。従来は英国法系に属していたカナダ会社法が、近時の経済情勢等の中で「米国化」していった過程を分析することで、同じく会社法制の米国化が進んでいるわが国の会社法についての有益な示唆が得らえると期待されるためである。 第二に、これまでの検討から得られた米国およびカナダに関する知見を踏まえて、わが国の取締役らに対する責任減免の最適な在り方について包括的な検討を行ったうえで、その成果を博士論文として執筆・公表することとする。当該論文は、「取締役に対する最適なインセンティブの付与」という観点から彼らに対する適切な責任減免の必要性が叫ばれる昨今において、今後のあるべき方向性を示唆する非常に有益なものとなることが期待できる。
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