2017 Fiscal Year Annual Research Report
高分子・ペプチドコンジュゲートの精密設計による自律応答型脂質デバイスの創製
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17J04783
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
増田 造 東京工業大学, 生命理工学院, 特別研究員(PD) (70814010)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 機能性高分子材料 / 生体材料 / 生体膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、刺激応答性高分子材料・膜破壊ペプチドの複合体を精密設計し、脂質二重膜と複合化することで外部刺激により可逆的に脂質二重膜のシート・ベシクル構造転移を誘起可能な「自律応答型脂質デバイス」の創製を目指すものである。本年度の研究内容としては当初の研究計画に基づき、カチオン性の高分子を主鎖に、温度応答性の高分子を側鎖に持つ新規温度応答型カチオン性くし型共重体poly(allylamine)-graft-poly(N-isopropylacrylamide) (PAA-g-PNIPAAm)の設計を行った。 目的の共重合体は以下に示す通り精密ラジカル重合法のひとつであるactivators regenerated by electron transfer-atom transfer radical polymerization (ARGET ATRP)を用いて合成することができた。さらに、PAA-g-PNIPAAmはE5ペプチドと複合体を形成し、脂質膜に対して両親媒性分子集合体として作用することが明らかになった。温度応答性高分子の効果について、25 °Cと35 °Cにおける漏出挙動を比較すると、相転移温度以上である35 °Cの方が漏出速度が顕著に上昇することが明らかになった。これは疎水的な環境において、E5とPAA-g-PNIPAAmのイオンコンプレックスが解離しにくくなったことによると考えられる。 研究成果は査読付き学術誌(アメリカ化学会Biomacromolecules誌)に掲載されるとともに、国際・国内学会において発信している。原著論文に加えて国内向けにも和文の解説をまとめ、刺激応答性高分子材料・生体材料の啓蒙にも務めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、温度応答性高分子を側鎖に持つカチオン性くし型共重合体と膜破壊ペプチドの複合体を設計し、これを脂質二重膜に作用させることで、その動的な構造転移を目指すものである。採用一年目の本年度は、当初の研究計画を中心に検討を進め、原著論文も学術誌に掲載されるに至った。目的の温度応答型カチオンくし型共重合体の合成・評価手法を確立し、膜破壊ペプチドの活性化を誘起できることを明らかにしている。特に、温度応答性高分子側鎖の親水性・疎水性の相転移が高分子とペプチドの相互作用に及ぼす影響を解析することで、これら複合体形成における親・疎水性環境の重要性が示唆された。これは、ペプチド以外のイオン性の生体分子にも普遍的にあてはまる可能性があり、高分子の化学構造の影響とともに詳細に検討したい。このように温度応答型カチオン性くし型共重合体と生体分子の相互作用を解析することで、新たな生体分子の構造・機能制御に関する知見が生まれつつある。また本年度は、原著論文だけではなく一般の化学雑誌に当該分野の総説を報告し、一般への科学技術の普及という観点からも積極的な情報発信を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
脂質膜のシート・ベシクル転移挙動の詳細な解析および、構造転移を効果的に誘起する高分子・ペプチド複合体の設計を進める。特に、高分子の設計について、PAA-g-PNIPAAmにさらに親水性のdextranを導入した混合型のグラフト共重合体を合成することで高効率なシート形成と構造転移の温度制御を達成したい。膜破壊ペプチドに化学的に温度応答性高分子鎖を導入する手法もあわせて検討を行う。高分子の分子量や修飾密度について系統的に検討することで、効果的なシート・ベシクル転移を達成できる材料設計を調査する。 また、脂質膜のシート・ベシクル転移挙動の詳細を調査するためには、大きさのそろったリポソームを調製すること、またひとつのリポソームの構造転移挙動を継時的に観察することが望まれる。これらの実験を行うため、マイクロ流路を利用したリポソームの調製および流路内へのリポソームの固定化を検討する。ペプチドの構造、脂質膜の形態はそれぞれCDスペクトル、共焦点蛍光顕微鏡観察により評価する。 温度応答性高分子と生体分子の複合体形成における親・疎水性環境の制御は、これまでに検討してきたペプチド以外のオン性の生体分子にも普遍的にあてはまる可能性がある。新たな生体分子の構造・機能制御に関する重要な知見にもつながると考えられ、あわせて検討を進めていきたい。蓄積した研究成果の発信も加速して取り組みたい。国内外の学会や論文化により積極的に発信する予定である。
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Research Products
(13 results)