2018 Fiscal Year Annual Research Report
慢性炎症-再生-がん連関におけるエピゲノムリモデリング機構の解明
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17J04827
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
藤井 正幸 慶應義塾大学, 医学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 炎症性腸疾患 / 潰瘍性大腸炎 / 大腸癌 / 遺伝子変異 / サイトカイン / 慢性炎症 |
Outline of Annual Research Achievements |
腸管上皮における慢性的な炎症の持続は発癌のリスクとなる.炎症性腸疾患関連癌に至る発癌過程において蓄積する遺伝子変異をクローンレベルで解析するため,慢性炎症粘膜よりオルガノイドを樹立し,単細胞からクローナルなオルガノイド増幅を行なった.オルガノイドクローンが獲得した遺伝子変異をエキソームシーケンスにて解析したところ,炎症シグナルに関連する遺伝子変異が複数認められた.炎症シグナルに関連する遺伝子を抽出し,樹立直後のポリクローナルなオルガノイドをターゲットシーケンスにて再度解析したところ,慢性炎症粘膜には健常粘膜と比較して炎症シグナルに関連する遺伝子変異が有意に集積する一方でことが確認された.これらの遺伝子変異の機能的解析として,CRISPR/Cas9技術を用いてノックアウトオルガノイドを作成した.その結果,ノックアウトオルガノイドはサイトカイン刺激への耐性を獲得した.エキソームで確認された変異はいずれも機能喪失型変異であり,慢性炎症においては炎症シグナルを減弱する変異を獲得したクローンが選択的に増殖すると考えられた.興味深いことに,炎症性腸疾患関連癌にこれらの遺伝子変異が認められることは稀であり,慢性炎症粘膜に蓄積する遺伝子変異は発癌にはあまり寄与しないことが示唆された.近年のシーケンス技術の進歩により,正常,つまり腫瘍性変化を伴わない皮膚,食道上皮,子宮内膜にもがんドライバー遺伝子の変異が蓄積することがわかっている.本研究では,慢性炎症下では腸管上皮にはがん化と無関係に炎症シグナルに関連した遺伝子変異が蓄積することを初めて証明した.本研究成果は,現在論文投稿中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
慢性炎症粘膜および炎症性腸疾患関連腫瘍を対象とした網羅的遺伝子変異解析により,本年度までにそれぞれの病変に特異的に蓄積する遺伝子変異を同定することに成功した.当初,慢性炎症粘膜には発癌に関与する遺伝子変異が蓄積していることが想定された.しかしながらこの予想に反し,慢性炎症粘膜には発癌に寄与しない炎症関連遺伝子変異が蓄積することが明らかとなった.そのため当初の予定をやや変更し,本研究は炎症関連発癌および,発癌とは独立した慢性炎症に関連した遺伝子変異の2つを対象とし,解析を進めた.このように,発癌と関係しない遺伝子変異が正常組織に蓄積するという報告は今までなされておらず,本研究成果によって加齢や炎症性疾患を理解する上で,新しい生物学的知見をもたらすことが期待される.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までの解析で同定された慢性炎症関連遺伝子変異の機能的意義について,オルガノイドおよびマウスを用いた機能的解析によってさらに追究する.具体的には袁紹関連遺伝子を網羅するCRISPR/Cas9ライブラリを用いた遺伝子ノックアウトスクリーニングおよびコンディショナルノックインマウスを用いた腸炎モデルおよび発癌モデルによる解析を予定している.さらに,遺伝子変異が炎症に特異的であることをより確実に提示するため,新規サンプルを対象としたターゲットシーケンスによるバリデーションを行う.以上の解析および今年度までの結果を基盤とし,平成31年度での論文公開を目指す.
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