2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J04907
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
野田 大貴 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 逆項間交差 / 熱活性型遅延蛍光 / 有機EL |
Outline of Annual Research Achievements |
熱活性型遅延蛍光(TADF)分子は、励起三重項から励起一重項状態への逆項間交差過程を示し、内部EL量子効率100%に達する高効率な有機発光デバイスを実現することができる。しかし、依然として高電流密度域での励起子消滅過程の抑制および素子耐久性の向上は解決すべき問題として残されている。これは、励起三重項状態の寿命が長いためである。本研究では、逆項間交差過程の高速化を志向した分子設計指針の開発および有機EL素子特性の向上を試みた。 逆項間交差過程では、始状態と終状態における波動関数の変化が大きい場合、両状態間の遷移確率は、全角運動量の保存則に従いスピン軌道相互作用が強められる結果、加速される。従来の分子設計指針は、電荷移動状態を形成し最低一重項状態励起状態と最低三重項状態励起状態のエネルギー差を小さくする設計指針に留まっており、結果として励起一重項状態と励起三重項状態は類似した分子軌道分布、すなわち分子軌道分布の変化が小さい分子となる結果、逆項間交差の向上は期待できない。そこで、電荷移動状態と異なる軌道分布を有する局在励起状態の導入を試み、ドナー・アクセプター母骨格に対し、エネルギー準位の異なる置換基を導入した“ヘテロドナー”型TADF分子を設計した。この設計によって電荷移動状態および局在励起状態を容易に制御することが可能となり、3倍以上大きな逆項間交差速度を実現した。また、ヘテロドナー型TADF分子を発光材料とした有機EL素子において、高電流密度領域における輝度の低下の抑制、30倍以上の素子耐久性の向上を実現した。これらの結果は、ヘテロドナー型の分子設計によってTADF分子の逆項間交差過程を制御に成功し、Science Advancesに受理された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
TADF分子の実アプリケーションへの展開を志向した場合、高電流密度領域における励起子消滅過程の存在は、大きな技術障壁となり、“超高速スピン変換型TADF分子の開発”というテーマを掲げ研究してきた。研究方針として、スピン変換過程の物理過程の解明、分子設計への落とし込み、有機EL素子評価、フィードバックの順に行った。スピン変換過程の物理過程を解明するために、これまで数多く報告されてきたTADF分子の光学特性を再評価することで、高効率な逆項間交差過程を示すTADF分子が有する因子(局在励起状態の関与)を発見した。続いて、局在励起状態をTADF分子に組み込む分子設計指針を量子化学計算、合成・評価することで模索しし、“ヘテロドナー”型TADF分子設計を打ち建てる事に成功した。ヘテロドナー型TADF分子設計は、これまでに報告されておらず、局在励起状態を制御した初の分子設計指針となった。また、新規材料を発光材料とした有機EL素子では、高電流密度領域における発光効率の低下を著しく抑制し、これまでに報告されたTADF分子を用いた有機EL素子の中でもトップクラスの素子耐久性を実現し、高効率・高耐久性を両立することに成功した。これらの結果は、有機EL討論会第25回例会にて報告し、公演奨励賞を受賞するとともに、Science Advancesに受理され、順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究を進めていく中で、従来の分子設計指針(電荷移動状態を形成し最低一重項状態励起状態と最低三重項状態励起状態のエネルギー差を小さくする)および“ヘテロドナー”型TADF分子設計を用いて説明できないTADF分子群を発見した。このTADF分子群に隠された物理過程を解明し、これまでの分子設計指針と組み合わせることによって、本研究の目標である“超高速スピン変換型TADF分子”の開発に近づくと考えられる。未だ明らかにされていない物理過程を解明することで、TADF分子におけるスピン変換過程を統一的に理解することを今後目標とする。TADF分子におけるスピン変換過程を統一的に理解することは、三重項励起子を用いるアプリケーション(有機EL素子、三重項-三重項消滅過程を用いたフォトンアップコンバージョン、バイオイメージング、有機蓄光)の発展に大きく寄与することも可能となる。 研究方策はこれまでの流れをくみ、先ず謎に包まれたTADF分子群の励起状態ダイナミクスの解明に重点的に取り組む。過渡吸収および発光測定を組み合わせることによって、二つの視点から励起子の道筋(どのような経路で発光・失活するか)を詳細に検討する。研究を進めていく中で生じた仮説を検証するために、新規分子を設計し評価、量子化学計算による裏付けを行う。仮説の実証後、新しい物理過程を取り込んだ新規分子設計指針を構築し、有機EL素子としてデバイスの評価も行う。
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