2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J04913
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
川崎 聡史 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
Keywords | ドイツ現代史 / 西ドイツ / 68年運動 / 新左翼 / 学生運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1960年代の全世界的な抗議運動(68年運動)における特に学生運動の経験が、1970年代の若者を主体とした運動にどのような影響を及ぼしたのかについて注目するものである。分析の視角として、68年運動以後の運動の形態を3つの類型に分類した。つまり、ドイツ社会民主党(SPD)の青年組織ユーゾー、毛沢東主義的小規模組織(Kグループ)、左翼テロリズムである。 本年度は、当初の計画通りユーゾーに参加した若者に関する研究を主に進めた。ここから得られた知見は以下の通りである。 (1)1960年代後半に68年運動がその最高潮へと至る以前から、ユーゾー自体も段階的に左傾化しつつあった。すでに1965年からユーゾーとSPD指導部の間にはその政治的方針を巡って緊張が発生していた。68年運動の経験はこうしたユーゾーの動向に決定的な推進力を与えた。 (2)68年運動による若者の政治化と彼らが大挙して入党したことは、ユーゾーの左傾化の進展とそれがSPD内部で持つ政治的影響力の著しい拡大をもたらした。特に1969年12月のミュンヘンにおけるユーゾー連邦会議において、若い党員たちがSPD内外の既存体制との対決的な取り組みを宣言したことは、その左傾化を示す象徴的な事象であると同時にユーゾーの自らの党内での権力への自信に由来するものであった。 (3)しかし、こうした若い党員たちの反抗は、70年代を通して党指導部の対応によって次第に勢いを失っていく。特に若い党員への党内キャリアの約束という「アメ」と、党内での処罰という「ムチ」による統合路線が、党の公式路線へのユーゾーの忠実さを回復させるのに大いに役立った。 さらに上記の研究と並行して、2017年10月からドイツに滞在し、ハレ大学第一哲学部歴史学科のマンフレート・ヘットリング教授とパトリック・ヴァーグナー教授から研究指導を受けている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度前半は、本研究の前提となる68年運動における学生たちの政治的経験について調査し、その成果を雑誌論文としてまとめた。8月および10月から3月にはドイツに滞在し、ハレ大学の両教授からの助言とともに歴史学のセミナーとコロキアムに参加し、ドイツにおける最新の歴史学の状況について知見を深めた。さらに文書館での史料調査を積極的に行っており、特にSPD系のフリードリヒ・エーベルト財団付属文書館(ボン)では、ユーゾーに関する史料を閲覧した。特に重要な活動家であったヴォルフガング・ロート、カールステン・フォイクト、デートレフ・アルバースらの個人史料を収集した。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の計画に基づいて今後も研究を進める。今後の課題として、Kグループおよび左翼テロリズムに対して学生運動が及ぼした影響に関する研究を行う。そのために今後はベルリン自由大学付属文書館およびハンブルク社会研究所付属文書館で重点的な史料調査を行う。さらに研究成果のアウトプットを積極的に行う。現在、6月に日本西洋史学会(広島)での報告を予定している。
|