2017 Fiscal Year Annual Research Report
金属ナノコンタクトに対する低温水素吸蔵を利用した電子状態制御
Project/Area Number |
17J04934
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高田 弘樹 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
|
Keywords | 点接合分光法 / 金属ナノコンタクト / 金属水素化物 / 低温水素吸蔵 |
Outline of Annual Research Achievements |
水素は強い量子性を有しており、金属表面・内部での水素の拡散過程や水素化に伴う母金属の電子状態変化にはその水素の量子性が強く影響することが知られている。従来、低温域(T < 50 K)で利用可能な水素の吸蔵・拡散現象に関する研究手法は限られていたが、我々は点接合分光法を利用した実験手法を新たに開発し、それを用いて低温での水素吸蔵・拡散過程及びそれに伴う母金属電子状態変化に関する研究を行っている。実施した実験とそれにより得られた結果を以下に示す。 まず金属Vナノコンタクトを低温(T < 20 K)で水素化させ、それに伴って生じるVの電気伝導特性変化の観測実験を行った。この実験により、低温で高濃度V水素化物ナノコンタクトを生成することによって、その微分伝導特性(dI/dV特性)に著しい変化が再現性良く生じることを明らかにした。さらに、この高濃度V水素化物ナノコンタクトで得られたdI/dV特性は、金属Crナノコンタクトで観測される特異なdI/dV信号と定性的・定量的によく似た振る舞いであり、高濃度V水素化物の電子状態はCr-likeになっている可能性がある。 そこで変化の起源を明らかにするため、高濃度V水素化物のdI/dV信号の温度依存性及び超伝導転移温度以下における特性の評価を実施した。 高濃度V水素化物及びCrナノコンタクトのdI/dV信号の、コンタクト径依存性及び温度依存性をそれぞれ測定し比較したところ、両者は類似の依存性を示すことが分かった。加えて、超伝導転移温度以下における高濃度V水素化物及びNb水素化物の電気伝導特性の測定から、高濃度V水素化物ではジョセフソン電流が他より抑制されることが明らかになった。これら結果は、高濃度V水素化物を低温で生成するに伴いその電子状態が変化すること、その変化後の電子状態はCr-likeになっている可能性が高いことを示している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
点接合分光法を利用して金属Vナノコンタクトを低温で高濃度に水素化させることによって、その電子状態を変化させることができることを明らかにした。また、高濃度V水素化物から水素を脱離させることにより、信号を制御可能であることも確認しており、本研究で用いる手法によりその電子状態を制御可能であることが示された。加えて、この電子状態変化の起源についてであるが、Crナノコンタクトで得られたdI/dV信号の温度依存性やコンタクト径依存性などにおいて、低温で作成した高濃度V水素化物ナノコンタクトのdI/dV信号と非常に類似した振る舞いも観測された。この結果は、金属Vナノコンタクトを高濃度に水素化することによって生じた電気伝導特性の著しい変化が、その電子状態がCr-likeへと変化したことに起因している可能性が高いことを示している。 これら結果に対して、磁場中での実験を実施したところ、ナノコンタクトを安定維持させての実験が困難であることが分かった。この点に関しては、今後エレクトロマイグレーション法を利用してより強固なナノコンタクトを作成し、それを用いて磁場中での実験を実施していこうと考えている。 以上の結果に加えて、水素雰囲気中に曝した金属Nbナノコンタクトの超伝導特性には、超伝導ギャップにより生じるピーク構造の内部において特徴的な多数のピーク構造が観測されることが明らかになった。このピーク構造は水素の無い状態では一切観測されない特性であり、それらピークの出現電圧値は温度に依存しないことも分かった。この温度に依存しない振る舞いより、このピーク構造がアンドレーエフ反射などの超伝導ギャップに起因したものではなく、水素の量子性に起因した現象であると推測される。したがって、本研究の実験方法によって金属表面・内部に存在する水素の量子的状態を解明できる可能性があることも明らかになってきた。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの結果を受けて、点接合分光法を利用して低温で金属ナノコンタクトを高濃度に水素化させることにより生じる電子状態変化、及び水素雰囲気中に曝した金属Nbナノコンタクトの超伝導特性に出現したピーク構造の起源に注目して、さらに研究を進めていく。 まず、低温で金属ナノコンタクトを水素化させることによる電子状態制御の実験を金属V以外の金属に対して適用した実験を行う。金属パラジウム(Pd)の高濃度水素化物においては超伝導が生じるほか、イットリウム(Y)などの金属においては、高濃度水素化物形成に伴って金属-絶縁体転移が生じる。これら金属Pd及びYに対して本研究で用いる手法により低温で高濃度に水素吸蔵させることによって、同様に電子状態制御が可能であるかを明らかにする。この実験から、本実験手法を用いた電子状態制御の一般性を明らかにする。 また、これらと並行してエレクトロマイグレーション法により作成した金属ナノコンタクトにおける実験も進めていく。 上記の実験に加えて、水素により生じる超伝導Nbナノコンタクトの超伝導特性のピーク構造に関しても追究していく。まず、水素雰囲気中での実験結果と比較するために、重水素雰囲気中及びヘリウム雰囲気中での実験を実施する。これによって、観測されたピーク構造と吸蔵・吸着されている原子種の関係を明らかにし、その量子性の影響を探る。また、他の超伝導体ナノコンタクトにおいても同様のピーク構造が観測されるのかを明らかにするために、この構造に注目した実験を金属V、Taで実施し、その他ナマリ(Pb)やスズ(Sn)などの超伝導体での実験も行う。これにより、超伝導体のギャップの大きさや格子定数が異なる金属間での実験結果を比較することで、観測されているピーク構造の起源を明らかにしていく。
|
Research Products
(11 results)