2018 Fiscal Year Annual Research Report
コンドライト隕石による未分化天体形成・進化過程の解明
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17J04987
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
本馬 佳賢 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | パラサイト隕石 / Hf-W年代学 / 宇宙線照射 / 元素合成に起因する不均質 / カラムクロマトグラフィー |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は主にパラサイト隕石のタングステン同位体比及び白金同位体比の測定を行い、パラサイト隕石中の鉄-ニッケルメタルのモデル182Hf-182W年代を決定した。平成29年度に鉄-ニッケルメタルの溶解方法及び元素分離法を確立させたが、当年度ではこの手法を複数のパラサイト隕石に適用した。これまでに分析を行っていたBrenham隕石に加え、新たにBrahin, Esquel, Imilac, Seymachan隕石のタングステンと白金同位体比の分析を行った。いずれの隕石からも元素合成に起因する不均質を反映する183W/184W同位体比に異常が見られず、これらの母天体が地球と同様に内側太陽系で集積したことが示唆された。また、パラサイト隕石の白金同位体比はEsquel隕石を除きわずかに正の同位体比異常を示し、宇宙線照射の影響を被っていることが示された。宇宙線照射による182W/184W同位体比の変動を補正したところ、パラサイト隕石の母天体では太陽系最古の物質であるCAIの形成後約2.1Myr以内に惑星分化が起こっていたことが示唆された。 上記に加え、平成30年度ではマグネシウムを多く含む試料のタングステンの分離法についての検討を行った。これはパラサイト隕石の主要構成鉱物であるカンラン石にマグネシウムが多く含まれており、フッ化水素酸で溶解する際にフッ化マグネシウムの沈殿を形成してしまうことが問題となっているためである。分離法についての検討を行ったところ、濃塩酸に岩石試料を溶解させた状態で陰イオン交換樹脂に試料導入を行うことでマグネシウムとタングステンを分離できることが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度ではこれまでに確立したタングステン・白金同位体分析手法を用いて複数のパラサイト隕石の初生タングステン同位体比の組成を決定することに成功した。これによりパラサイト隕石の母天体上では、太陽系最古の物質であるCAI形成の約2.1Myr以内には惑星分化が起こっていたことが示唆された。この成果は国際学会であるLunar and Planetary Science Conferenceで口頭発表に採択された。このため、進捗状況が順調に進展していると判断した。 またこれまで課題であったマグネシウムを多く含む岩石試料のタングステン分離法についても、新たにカラムケミストリーを検討することで解決しつつある。この分離手法を確立することで世界で初めてパラサイト隕石のアイソクロン年代を得ることが可能になる。またこの分離手法はパラサイト隕石だけではなく、その他の隕石・地球試料にも適用することが出来る。特にコンドライト隕石や始原的エコンドライトに含まれるカンラン石の分析においても使用できるため、マグネシウムを多く含む岩石試料のタングステン分離手法を確立しつつある現状を踏まえると研究がおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、平成30年度に検討を行ったマグネシウムを多く含む試料におけるタングステン分離法のタングステンの回収率が低いため、タングステン回収溶液を変えることで収率の改善を行う。岩石試料に関してタングステンの分離法を確定させたのちにパラサイト隕石のカンラン石についてハフニウム及びタングステン同位体比分析を行い、これまでに得られているパラサイト隕石メタルのW同位体比分析の結果と合わせてパラサイト隕石のHf-Wアイソクロン年代を得ることを試みる。パラサイト隕石のモデルHf-W年代とHf-Wアイソクロン年代を組み合わせることでパラサイト隕石の形成過程に強い制約を与えることが期待できる。 パラサイト隕石のHf-W年代測定に加え、始原的エコンドライトであるNWA6704のHf-W年代測定も行う予定である。内側太陽系物質であるパラサイト隕石に対し、NWA6704は外側太陽系由来の隕石であり、炭素質コンドライト隕石に関連している隕石であると考えられる。またNWA6704は始原的エコンドライトであり、始原的であるコンドライト隕石と分化隕石であるパラサイト隕石の中間の状態の隕石である。この為この隕石のHf-W年代と過去の岩石学的な研究を組み合わせることで、炭素質コンドライト形成領域における天体の進化過程についてより詳細に記載することが期待できる。
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