2017 Fiscal Year Annual Research Report
骨の成長層ごとの安定同位体分析による、魚類・哺乳類の移動履歴解読手法の開発
Project/Area Number |
17J04991
|
Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
松林 順 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 生物地球化学研究分野, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
Keywords | 同位体 / 履歴 / 放射性炭素同位体比 / イオウ安定同位体比 / 魚類 / 哺乳類 / 骨 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、動物の成体の組織を使って、その個体の成長段階ごとの同位体比(同位体比履歴)を復元する手法の開発を目的としており、これまで同様の手法が確立されていなかった魚類および哺乳類を対象にこの手法の確立し、それを応用した研究を実施することを目的としている。今年度は、以下のように魚類、哺乳類ともに実験手法の確立を行った。魚類は脊椎骨の切片分析により軽元素同位体比の履歴情報を復元する手法を考案し、この手法の有効性を検証するため、河川で数年生活してから降海して1年半後に母川回帰するサクラマスをサンプリングしてイオウ安定同位体比を測定した。分析の結果、脊椎骨の内側の切片からは河川のイオウ安定同位体比のシグナルが、脊椎骨の外側からは海洋の同位体比のシグナルが得られた。したがって、硬骨魚類の脊椎骨錐体の成長層ごとに分析を行うことで、成長段階ごとの同位体比の履歴が得られることを証明した。 哺乳類では、大腿骨を成長方向に切り分けて分析することで、同位体比の履歴を復元する手法を考案し、放射性炭素同位体分析を用いて妥当性を検証した。1970~1980年頃は、大気核実験の影響で、放射性炭素同位体比分析による生物の年代推定が最も正確にできる時期となっている。そこで、栃木県立博物館および北海道大学植物園と協力して、1970年から1980年代に生きていた哺乳類の成獣から4種6個体分の大腿骨切片を採取した。得られた骨片を10等分に薄切し、それぞれコラーゲン抽出して、放射性炭素同位体比を測定した。分析の結果、髄に近い切片と最も外側の切片は新しい時期に作られ、中間の切片ではより古い時期に形成されていた。この結果から、骨コラーゲンのリモデリングは髄に近い部位のみに限定されており、大腿骨の中間以降の切片を分析することで哺乳類の同位体比の履歴情報が得られることが示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度である平成29年度は、本研究課題の主目的である「魚類および哺乳類において長期の同位体比履歴情報を復元する手法の開発」のプロトコル作成が完了し、また手法の妥当性の検証まで終えることができた。さらにこれらの成果を学術論文として投稿し、そのうち一つは受理・掲載されている。これは当初の年次計画で想定していた通りの進捗状況であり、分析上の技術的な問題点なども特に残されていないため、今後も計画通りのスケジュールで研究を進められると考えている。以上の点を考慮して、本研究課題はおおむね順調に進展していると評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では、2年目の前半は1年目の成果の論文化を重点的に行うことを予定していた。しかし、現段階で論文化はほぼ完了していることから、2年目の後半以降に着手する予定であった海洋(北太平洋)および陸域(陸域)における同位体比マップ作成を始める予定である。海洋については、同位体マップ作成に必要な動物プランクトンの広域サンプルをすでに入手しており、今後窒素安定同位体比の分析を進める予定である。陸域においては、2年目の夏以降に広域での植物試料サンプリングを行い、2年目の後半以降にイオウ安定同位体比の測定を行う予定である。平成30年度の計画が順調に進めば、最終年度は得られたデータの解析と論文執筆作業に重点を置いて研究を進める。
|