2017 Fiscal Year Annual Research Report
初期太陽系における非晶質珪酸塩結晶化と酸素同位体交換:先太陽系粒子残存条件の制約
Project/Area Number |
17J05044
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山本 大貴 北海道大学, 理学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 非晶質ケイ酸塩 / 酸素同位体交換 / プレソーラーケイ酸塩粒子 / 速度論 / 原始太陽系円盤 |
Outline of Annual Research Achievements |
太陽系形成以前に晩期型星周辺で作られ、%オーダーの酸素同位体異常を示すプレソーラーケイ酸塩粒子は、太陽系内での物理化学プロセスを免れてきたものであり、初期太陽系でプレソーラーケイ酸塩粒子が残存する条件があったことを示唆する。隕石母天体変成の影響が少ない隕石中のプレソーラーケイ酸塩粒子存在度は、プレソーラーケイ酸塩粒子が原始太陽系円盤中で破壊された可能性を示唆する。本研究では、非晶質フォルステライトと水蒸気との酸素同位体交換反応の起こりうる円盤物理条件 (温度、圧力) を制約することを目的とする。本年度は以下の研究成果が得られた。 真空加熱炉にガス導入系を備えた付けた装置を構築し、18Oに富む低圧水蒸気存在下で非晶質フォルステライトサブミクロン粒子を加熱し、赤外分光法、二次イオン質量分析法による分析をおこなった。 その結果、水蒸気圧0.3 Paで拡散に支配された同位体交換反応速度定数を得られ、またより低水蒸気圧0.01 Pa条件でガス供給律速の場合の同位体交換速度定数を定量化した。これらの結果を低圧の原始太陽系円盤への応用をおこなったところ、原始太陽系円盤に漂う非晶質フォルステライト粒子は原始太陽系円盤ガス存在の時間スケールで~500 Kより低温で保持された場合のみ初期の酸素同位体組成を保持することが可能であることがわかった。 また非晶質ケイ酸塩粒子と水蒸気との酸素同位体交換反応は、始原的なケイ酸塩ダストの初期酸素同位体組成残存可能性にも直接応用可能である。太陽系始原的天体の一つとして考えられる彗星を起源とするケイ酸塩ダストは、16Oに乏しい組成を持つことがわかっている。16Oに富む初期太陽系円盤ガスから凝縮したケイ酸塩ダストも同様に16Oに富む組成であった可能性を考えると、本研究の結果は彗星を形成したケイ酸塩ダストは彗星集積前に~500 Kより高温を経験した可能性を示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
低温で凍らせた氷からの低圧蒸気を装置内に導入し、導入ガス流量と排気量を調整することによって、炉内に定常的に低圧の原始太陽系円盤を模した環境を作り出すことが可能となった。18Oに富む水蒸気ガス中で加熱したサンプルの赤外吸収スペクトルにおいて、非晶質フォルステライト吸収帯のピークシフトが観察された。10マイクロメートル吸収帯領域のピーク位置は二次イオン質量分析計によって測定された酸素同位体組成と相関があり、ピークシフトから非晶質フォルステライトの酸素同位体組成推定が可能であることがわかった。水蒸気圧0.3 Paにおいて、酸素同位体交換率の時間変化は、三次元球への拡散方程式で説明され、拡散支配の非晶質フォルステライトと水蒸気との酸素同位体交換速度を定量化した。また、水蒸気圧0.01 Paにおいて、温度依存性の小さな同位体交換速度が観察されたことから、粒子表面への水分子の供給量が反応を律速していると考え、供給律速の同位体交換速度も定量化した。 拡散律速、供給律速のそれぞれの場合における同位体交換速度を原始太陽系円盤に近い低圧水蒸気ガス中の実験から定量化したことによって、実際の原始太陽系円盤での酸素同位体交換の時間スケールの推定が可能となった。これによってこれまで定性的にしか議論されてこなかった太陽系・プレソーラーケイ酸塩粒子の始原性保持の可能性を定量的に扱うことが可能となった。このことは当初予期していた以上の進展であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で実験対象としたフォルステライトとともにエンスタタイトも初期惑星系円盤の主要ダストとして存在する。そのため、今後はエンスタタイト組成の非晶質ケイ酸塩ダスト (非晶質エンスタタイト) と水蒸気との酸素同位体交換実験をフォルステライトの時と同様におこなうことで、非晶質ケイ酸塩粒子の酸素同位体交換反応の包括的な理解を目指す。低圧での非晶質エンスタタイト結晶化の速度論のデータから、適切な実験条件を設定し既に実験をおこなっている。
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Research Products
(4 results)