2017 Fiscal Year Annual Research Report
時空間マルチスケール新理論による津波防災施設の最適設計への挑戦
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17J05235
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
野村 怜佳 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 固液混相流 / 流体構造連成解析 / 安定化有限被覆法 / 見かけ粘性 / 粘性測定 / 個別要素法 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は,泥流化津波のような固液混相流の流動特性に関する研究および,海岸津波防災設備の一種である防潮林内の流れのモデル化についての研究に着手した. 上半期は,通常津波解析で用いられる単相流れと比べ,固液混相流が異なる流動特性を示す可能性に着目し,数値実験によって評価することに取り組んだ.液状化土についての議論を参考に,固液混相流の見かけ粘性の (1)土粒子の混入率や形状に対する依存性,(2)せん断速度への依存性,の二つの特性を観察することを目的に,有限被覆法・個別要素法を利用した大規模並列計算を実施することで粘性測定を行った. 細管粘度計を模した管路内で定常状態において測定される流量をHagen-Poiseuille式へ代入することで算定された粘性値から,粒子の混入数の増加に伴う粘性の増大傾向や,粒子形状に起因する抵抗に伴う粘性の増大傾向など古典的理論や水理実験値と整合する粘性の傾向が観察され,前述(1)に関する知見をまとめた上でその妥当性について議論することが出来た.一方,(2)せん断速度への依存性を観察することを目的とした測定の結果からは,従来知見とは逆行する,巨視的粘性の低下傾向が観察された.一連の研究成果から,今後の土砂交じり流れの解析において,粘性を考慮した解析を行う必要性を示すことができ,当該分野への一定の貢献があったものと考える.国内誌への掲載に加え,国際学会紀要としての出版を通じ一定の評価を受けている. 過年度下半期は,減災効果の評価について今後も多くの知見が必要と考えられる防災設備である「防潮林」についての研究に着手している.特別研究員採用以前に取り組んだ防潮林減災効果のマルチスケール評価に関する研究を基盤とし,防潮林内に発生する乱れた流れを一種の均質化流体の流動として表現することの可能な理論の構築に取り組んだ.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度内は固液混合流体理論の提案という研究課題の遂行を目標としていたが,取り組む中で当初想定しなかった理論的・技術的障壁があることが明らかになり,結論に至るまで時間を費やしてしまったことが上述の評価の理由である. 当初,泥流が示す通常の津波と異なる流動特性を,数値実験によって再現・評価し,広域の泥流予測シミュレーションへ反映させることを目的としていた.しかし,せん断速度に対する見かけ粘性の依存性を評価しようとした試みにおいて,得られた粘性傾向が従来の知見や水理実験値と齟齬するものであったため,学術集会などにおいて他機関の研究者と議論する時間を大いに必要とした.最終的に,課題解決には,申請者が専門とする土木工学・流体力学・計算工学分野などの領域を超えた,分野横断的な協同が必要であるという結論に達した. 特別研究員の任期などの時間的制約に加え,この研究課題に対して計画以上のエフォートを割くことは妥当ではないという判断から,固液混相流理論の構築という当初の目標をいったん棚上げし,限定的な条件ではあるが昨年末時点までに導いた結論と得られた知見を成果として査読付き論文に掲載し,これをもって次段階へと移行することにした. このような予期せぬ遅延が発生したものの,研究成果の一部は従来提案されている理論や既報の水理実験結果から予想される結果とも整合するものである.今後,土砂や瓦礫を巻き込んだ洪水・津波のシミュレーションに展開する際に,固体の混入による見かけの粘性の変化を一定程度考慮すべきであることを定量的データに基づいて示すことが出来たと言え,当該研究分野に一定の貢献ができたと考えている.研究遂行過程で得られた知見は,現在取り組んでいる防潮林内流れの特性評価にも役立つものと期待している.
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Strategy for Future Research Activity |
過年度下半期から過年度末まで,津波防災設備の一種である防潮林を対象とした流れのモデル化に着手しており,今年度は理論の構築から検証までを含めたモデル化を完了させることを計画している. 具体的には,特別研究員採用以前に取り組んだ防潮林のマルチスケール減災性能評価に関する研究を基盤とし,一種の均質化流体の流動として防潮林内の乱れた流れが表現される数値モデルを完成させる.このモデルでは,従来手法が流体力や粗度として,シミュレーションに取り込んできた防潮林の減衰効果を,防潮林内流れのエネルギー散逸率によって組み込むものである.乱流解析の分野における「渦粘性の増加」という捉え方を踏襲するならば,最終的に防潮林内の流れは「見かけ粘性の増大した均質流体の流動として表現される」という仮定を立て,理論を構築していく方針である.昨年度参加した海外ワークショップをきっかけに人的ネットワークができた応用数学を専門とするRandall. J. LeVeque教授(ワシントン大学,シアトル)のもとに数週間程滞在し,意見交換を通じて構築段階である理論についての補強を行う. これらの成果は参加を予定している複数の国内・国外での研究集会で発表することで,その妥当性について広くコメントをもらうことを予定している.提案理論を検証するため複数の検証解析を実施した後,国内誌・海外誌への投稿を考えたい. また,防潮林が「津波波力の減衰」と「流失による被害拡大」という正・負の両側面を持ち合わせていることから,波力による流失過程を表現することの可能なモデルへと発展させることを予定している.
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