2017 Fiscal Year Annual Research Report
3次元ディラック電子系アンチペロブスカイト酸化物における磁気輸送現象
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17J05243
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
末次 祥大 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | ディラック半金属 / トポロジカル物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の舞台であるアンチペロブスカイト酸化物A3EO(A=Ca,Sr,Ba;E=Sn,Pb)は化学的組成の柔軟性を持つためディラック電子の制御やその物性探索に有望な物質群である。カイラル異常に誘起された負の縦磁気抵抗効果を詳細まで明らかにすることなどを目的に磁気輸送測定による研究を進めている途中で、ディラック電子系で生じる新奇な物性の一つである巨大な軌道反磁性と思われる振る舞いを観測した。ディラック電子の巨大な軌道反磁性はバンド間効果によって全ての占有状態が寄与するといった、トポロジカルな応答と捉えることができる非常に面白い研究課題である。しかしながら、これまでのビスマスなどにおける研究では軌道反磁性をスピンなどの他の磁化成分から分離できていないため、軌道反磁性そのものを観測できたわけではないという問題があった。 そのため当初の研究課題とは異なるが、アンチペロブスカイト酸化物において巨大な軌道反磁性の寄与を他の磁化成分から分離することを目指し研究を進めた。具体的には、アンチペロブスカイト酸化物はSnやPbの原子核を用いたNMRで磁気的性質を調べるのに適しているため、複数の異なったキャリア密度の試料についてNMR測定を行った。 NMR測定で得られたナイトシフトとスピン格子緩和率を比較してプロットしてみると、高キャリア密度の試料ではナイトシフトが状態密度に比例していることがわかり、スピン磁化率が支配的であることがわかった。一方、ディラック電子が存在すると予想される低キャリア密度の試料では、ナイトシフトが状態密度に比例するスピン磁化率では説明することができず、軌道反磁性の寄与が存在することがわかった。以上の結果から、ナイトシフトにおいてディラック電子の軌道反磁性をスピン成分から分離して観測することに初めて成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定であった磁気輸送測定とは異なるが、ディラック電子による従来とは異なった物性の一つである巨大な軌道反磁性についての研究を行った。これまでのビスマスにおける研究ではディラック電子の軌道反磁性をスピンなどの他の磁化率の寄与から分離できておらず、巨大な軌道反磁性を直接的に観測できていないという問題があった。 そのため本研究では、アンチペロブスカイト酸化物において軌道反磁性の寄与を他の磁化率の寄与から分離することを目指し、複数の異なるキャリア密度の試料でNMR測定を行った。測定で得られたナイトシフトとスピン格子緩和率についてコリンハの関係式を用いた解析をすると、ナイトシフトのスピン成分を見積もることに成功し、ディラック電子の軌道反磁性の寄与を分離することに初めて成功した。 以上の結果から、本研究の目標であったディラック電子の軌道反磁性の寄与の分離に成功し、ディラック電子の反磁性が軌道磁化率に由来することを示すことができたため、本研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
ディラック電子の軌道反磁性の研究のために後回しにしていたカイラル異常に誘起された負の縦磁気抵抗効果などの探索を磁気輸送測定によって行う。3次元ディラック電子系は磁気抵抗に大きな異方性があるため電流が試料の一部分のみを流れてしまう電流ジェット効果が発生する。この効果が原因で磁気抵抗の正確な測定が困難であるため、カイラル異常に誘起された負の縦磁気抵抗効果の詳細は不明のままであった。 本研究では、磁気輸送測定用の二軸回転プローブを作成し、磁場と電流の角度依存性の詳細な測定を行う。さらに、これまでのアンチペロブスカイト酸化物における研究では、試料が空気中で不安定なために結晶軸方向が決定されていなかった。今後はカプトンシートで試料を保護してX線測定を行ったり量子振動などを用いて結晶軸方向を決定し、磁気輸送の結晶軸依存性についても測定を行う。 また、プレイナーホール効果などの他の異常な磁気輸送現象の観測や、バレーの異方性に起因した量子極限化におけるバレーオーダーなどの新奇な電子状態の実現も目指す。
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