2017 Fiscal Year Annual Research Report
現代ダンス史における偶然性と反偶然性―振付方法の分析とその歴史的背景―
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17J05244
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
吉田 駿太朗 東京藝術大学, 音楽研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 反偶然性 / 矢野英征 / 振付ノート / ポスト・モダンダンス / ダンススコア / 偶然性 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、フランスのパリの国立ダンスセンターに所蔵される矢野英征(1943-88)の振付ノートや作品映像資料すべてに目を通し、この振付家の作品群から見られる反偶然性の振付方法について研究を行った。彼のパリでの代表作である『隅田川/狂気』(1976)をはじめ、『ハナ(華-花) 記憶無き儀式』(1980)、『鷹の井戸』(1984)など計11作品を通して分析、考察を行った。矢野英征のダンスパートナーであるエルザ・ウォリアストンへの聞き取り調査や、振付ノートと記録映像との整合性を照合した結果、『隅田川/狂気』の振付ノートは、再演のために記述されていることが明らかとなった。その結果、振付ノートは映像が不完全な時代における、矢野のための記録として機能しており、それを通して作家自身の振付をモニュメント化することに最終的な目的が置かれているような振付方法を提示している。 しかしながら、1980年代以降の作品の振付ノートでは、矢野は記録行為として、振付をモニュメント化するための記述よりも、作品の創作過程における記述の修正や明確化に重点を置くようになっていることが明らかとなった。これらの作品の振付ノートには、作者の重層的な記述と図的要素が記述されており、作者が作品の意味を生産し、偶然性を排除することが不可欠な要素となっている。また、これらの記述は、ダンサーへの制約であり、観客に対する作品への解釈の自由を狭めるという役割を果たしており、1960年代のポスト・モダンダンスのダンススコアに接近している。矢野の振付方法は、「振付のモニュメント化」から「振付における偶然性の排除」に移行していると言え、1980年代以降に現れる反偶然性の振付方法が何であったかという当該研究分野の課題に一つの回答を示すことができた点に、本研究の意義があると言えるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究を進める上で課題としていた国内外の文献の読解をある程度進めることができた。また、フランスのパリの国立ダンスセンターの協力を得て、研究課題である振付家の矢野英征の振付方法の変遷について研究を行うことができた。その結果、矢野英征の振付ノートに見られる記述の変遷が、従来の研究によく見られるような再演のための振付のモニュメント化と位置づけるパースペクティヴではなく、振付方法における反偶然性の視点を提示することができたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
偶然性から反偶然性の振付方法の変遷について着目するために、1960年代以降のジョン・ケージの偶然性の概念に影響を受けるポスト・モダンダンスの研究を今後進める必要がある。そのため、ニューヨーク公共図書館においてポスト・モダンダンスのダンススコアや文献調査を行うとともに、ポスト・モダンダンスの振付家たちが創設するダンス・カンパニーのフィールドワークを行うことが不可欠である。 また、ポスト・モダンダンスのダンススコアや土方巽の舞踏譜の背景となる図形楽譜との関連性や矢野の振付ノートに関連する舞踊記譜法について調査し、図形楽譜については、図形楽譜が現れる以前の舞踊譜の限界とポスト・モダンダンスのダンススコアへの影響を明らかにする必要がある。
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