2017 Fiscal Year Annual Research Report
核小体の完全性を保証する新たなストレス応答機構の解明とがん治療への応用
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17J05291
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
川畑 拓斗 鹿児島大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 核小体ストレス応答 / 細胞分裂 / p53 / 蛍光レポーターシステム / M期阻害剤 / 細胞増殖抑制 / 分裂監視機構 / がん治療戦略 |
Outline of Annual Research Achievements |
リボソーム構築を担う核小体の機能は、適切なタンパク質合成に必須である。近年、核小体機能の異常は、核小体ストレス応答により細胞増殖が抑制されることが分かってきた。核小体ストレス応答は、生体の恒常性維持や腫瘍化進展の抑制に重要なストレス応答であるものの、この応答の生体内ダイナミクスは未だ不明である。 そこで、我々は生きた細胞内でこの応答を蛍光輝点として検出可能なレポーターシステムを新たに構築し、このシステムを用いることによって、核小体ストレス応答が細胞分裂の異常を監視している可能性を見出した。 分裂異常を引き起こすPaclitaxelやVinblastineなど複数のM期阻害剤を用いた検討により、分裂異常を起こした細胞は、核小体ストレス応答依存的にがん抑制因子p53を増加させ、細胞増殖を抑制することが明らかになった。また、蛍光免疫染色法を用いた検討によって、M期阻害剤で処理された細胞は複数の微小核を形成し、その内核小体の再構築に失敗した微小核上で蛍光輝点が形成されることが明らかになった。これらの結果から、核小体ストレス応答は、分裂異常によって微小核を形成した細胞を適切に排除することによって、分裂異常によるゲノム不安定性を防ぐ重要な役割を担うと考えられた。 PaclitaxelやVinblastineなどの薬剤は、実際に抗がん剤として用いられていることから、核小体ストレス応答と分裂異常による細胞増殖抑制の関連性を明らかにすることによって、新たながん治療戦略につながることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで、核小体機能の異常により核小体ストレス応答が起こり、細胞増殖が抑制されることが分かっているものの、実際にこの応答が生体内で、いつ、どこで、どのように活性化するかは不明であった。 今回、我々は生きた細胞内で、核小体ストレス応答を蛍光輝点として検出可能なレポーターシステムを新たに構築し、このシステムを用いて約400種の標準阻害剤ライブラリーのスクリーニングを実施した。スクリーニングの結果、PaclitaxelやVinblastine、Nocodazoleなど複数のM期阻害剤がヒットとして得られたことから、核小体ストレス応答と細胞分裂異常の関連性が示唆された。 siRNAを用いて核小体ストレス応答の機能を抑制した細胞は、M期阻害剤によるがん抑制因子p53の活性化および細胞増殖抑制効果が減弱することを見出した。さらに、蛍光免疫染色法を用いた検討により、M期阻害剤を添加した細胞は複数の微小核を形成し、形成された微小核の内、核小体の構築異常を示す微小核上で核小体ストレス応答が起こることが分かった。 以上の結果から、核小体ストレス応答は分裂異常によって微小核を形成した細胞を適切に排除し、分裂異常によって発生するがん化を防ぐ重要な細胞分裂監視機構であると考えられた。このように、研究目的の一つである核小体ストレス応答の新たな役割が明らかになりつつあることからも、研究はおおむね順調に進んでいると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの研究結果から、分裂異常を起こした細胞は複数の微小核を形成し、核小体の再構築に失敗した微小核上で核小体ストレス応答が起こることによって、細胞の増殖が抑制されることが分かってきた。しかし、これまでの検討では、グリオーマ細胞株U251細胞や、乳がん細胞株MCF-7細胞、骨肉腫細胞株U2OS細胞など複数のがん細胞株と、微小管の重合もしくは脱重合を阻害するPaclitaxelやVinblastine、Nocodazoleなど複数のM期阻害剤を用いて研究を行っているため、正常細胞においても分裂異常が起こると複数の微小核が形成され、核小体ストレス応答が誘起されるのか、また、微小管の重合/脱重合の阻害以外の分裂異常の誘導によっても核小体ストレス応答が起こるのかは不明である。 したがって、今後の研究の推進方策として、正常細胞である乳腺上皮細胞株MCF10A細胞や、細胞分裂に関与するタンパク質Aurora Bキナーゼの阻害剤などを用いて検討することにより、正常細胞における分裂異常と核小体ストレス応答の関連性および核小体ストレス応答が微小管の重合/脱重合の阻害以外によって引き起こされる分裂異常にも関与しているのかを明らかにする。 さらに、個体レベルでの検討を行うため、核小体ストレス応答を蛍光輝点として検出可能なレポーターマウスを作製する。 上記の研究に加え、核小体ストレス応答を誘導することがすでに知られている薬剤5-FUと、5-FUを抗がん治療薬として使用している胃がんの細胞株を用いて、胃がんにおける5-FUと核小体ストレス応答の関連性を明らかにし、臨床応用につなげる。
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