2018 Fiscal Year Annual Research Report
電気スイッチによる微生物の代謝制御:その基礎と応用
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17J05454
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Research Institution | Tokyo University of Pharmacy and Life Science |
Principal Investigator |
廣瀬 篤弥 東京薬科大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 電気化学活性細菌 / 微生物電気化学システム / 微生物発酵 / 転写制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではShewanella oneidensis MR-1株をホストとし、電気スイッチ(電位依存性プロモーター)を利用した新規物質生産系の確立を目指して研究を行っている。本年度は上記の目的の達成のため、下記の3つの解析を行った。1つ目はNADH脱水素酵素の電位依存性の解析である。MR-1株はゲノム上に4つのNDHを持ち、電子受容体によって異なるNDHを利用することが予想されるが、その詳細は明らかになっていない。そこで各NDH三重破壊株を作製し、様々な電子受容体存在下で培養してその形質を解析した。その結果、電子受容体の酸化還元電位に依存してNDHの寄与率が変化することが明らかになった。過去の研究から、MR-1株はArc systemと呼ばれる3成分制御系が細胞外に存在する電子受容体の酸化還元電位の変化を認識し、異化代謝系遺伝子の発現を制御することが明らかになっている。そこでArc systemのresponse regulatorであるArcAとNDH遺伝子上流領域との相互作用解析を行ったところ、3つのNDHの発現がArcAに依存していることが示された。2つ目はNaCl濃度依存性の解析である。電気培養条件では電解質として1%の濃度でNaClを添加する必要があり、淡水域で単離されたMR-1株には負荷になる可能性がある。一方でMR-1株は海洋性細菌が保持するNa+ポンプ活性を示すNDHを持つため、高Na+濃度条件下ではこれを利用して代謝を行う可能性がある。そこで様々なNaCl濃度条件でNDH三重破壊株を作製し、その形質を解析した。その結果、高NaCl濃度条件ではNa+ポンプ活性を持つNDHのみが機能していること明らかになった。この結果はMR-1株が海洋性細菌と同様のエネルギー保存機構を備えていることを示唆する。3つ目は電気スイッチの創生である。昨年度までに得られた知見を基に、NDHの一つであるnuo上流域から他の発現制御因子の結合領域を除いた改変プロモーターを作製した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、NADH脱水素酵素(NDH)の一つであるnuo上流域の改変プロモーターを作製し、電極電位依存的な遺伝子発現制御機構(電気スイッチ)の構築を行った。また、電気スイッチ導入株を用いた実験から、目的遺伝子の発現は細胞内酸化還元バランスの変化に依存していることが示唆された。またMR-1株のArcAは大腸菌のArcA結合配列も認識することを明らかにした。この結果は既に大腸菌で同定されているArcAプロモーターをMR-1株に導入し、電気スイッチとして利用できることを示唆する。これらに加えて、MR-1株が異なる電子受容体(酸化還元電位)に依存して、いくつかのNDHを使い分けることを明らかにした。NDHはMR-1株が低電位電極から受けとった電子(還元力)を細胞内に伝達するための鍵酵素であり、これらの発現制御機構等の解明は電気化学活性細菌の電子受容能力の向上に寄与すると考えられる。よって今年度の研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究により、多くの知見が集積されている大腸菌ArcAプロモーターをMR-1株に適用できることが明らかになった。そこで次年度はこれらプロモーターを利用することにより、高活性でかつON、OFFが明確な改変プロモーターの作製を目指す。またMR-1株の電子受容能力向上のための基礎的な知見が得られたことから、次年度は遺伝子破壊株を用いてより詳細に解析を行い、電子受容条件で機能するNDHを同定する。その後、同定した遺伝子の発現を制御することで電子受容能力の向上を目指す。これらを組み合わせることでMR-1株をホストとした新規物質生産系の構築と高効率化を目指したい。
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Research Products
(6 results)