2017 Fiscal Year Annual Research Report
超軽量X線望遠鏡を用いた木星磁気圏における粒子加速の探索
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17J05475
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
沼澤 正樹 首都大学東京, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | X線天文学 / X線望遠鏡 / マイクロマシン技術 / 木星X線 / 木星磁気圏 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、木星磁気圏からの広がったX線放射という日本のX線天文衛星「すざく」で見つかってきた新しい放射を「その場」観測で探るものである。そのために、(1) 探査衛星に搭載できる超軽量・広視野X線望遠鏡を開発し、近地球軌道の超小型衛星で宇宙実証を進めるとともに、(2) 「すざく」など天文衛星で得られたデータを解析し、木星磁気圏からのX線放射モデルを構築することを目指す。 (1) 本望遠鏡はマイクロマシン技術を複合的に用いることで完成する。本年度はまず望遠鏡の要素技術改良に取り組み、角度分解能を向上させることに成功した。ドライエッチングでシリコン基板に微細穴を開け、アニ―ルで側壁を加工することで反射鏡とする手法であり、側壁の面粗さ (形状精度) と、配置精度が課題である。私はグループメンバーと共に、水素アニールによる側壁の平坦化に取り組んだ。シリコン原子の拡散長に注目することで、本望遠鏡におけるアニール効果の時間依存性を見出した。結果として、100時間を超える長時間のアニール処理によって、目標とする形状精度の達成が期待できる示唆を得た。また、鏡を一括して集光系に配置する高温塑性変形プロセスの評価方法を改良し、基板形状の理想曲面に対する揺らぎから望遠鏡の配置精度を推定する手法を考案し、X線試験と比較することで確かめた。この手法は望遠鏡の製作・評価のサイクルを飛躍的に向上させ、今後の要素技術改良に大きく役立つと考えられる。 (2) X線天文衛星「すざく」を用いた太陽活動極大における木星放射線帯からの広がったX線の研究を進め、木星磁気圏内の数十 MeV 電子による逆コンプトン散乱説を支持する結果を得た。さらには海外の研究者とも交流して研究を進めつつある。 関連する成果は、国際会議での口頭発表、査読付き主著論文を始め、様々な場で発信しており、研究は順調に推移していると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
X線望遠鏡の開発については、十分な成果があったと言える。望遠鏡の反射面を平滑化するアニールにおいては、東北大学金森研の大型アニール装置を用いて10時間の長時間プロセスを実施することで、我々の光学系における平滑効果の時間依存性について調べた。同装置を用いた長時間のプロセスは初めてであり、約100時間の超長時間のプロセスによって我々の目標とする形状精度を達成できる見込みを得た。望遠鏡を一括に配置する変形においては、温度と荷重条件に注目して条件だしを行い、これを最適化した。現在は、基板厚みや保持時間に着目して条件だしを進めている。さらにこれと並行して、宇宙研のX線ビームラインを用いて行う照射試験に代わる評価方法として、非接触式形状測定器(NH-3)を用いた手法を新しく検討し、その妥当性について従来のX線照射による手法と比較することで確認した。これらの結果については、共著者としてMNC 国際会議などで発表し、主著者として論文を投稿、受理された。 木星データの天体解析については、計画と異なったものの全体として進展があったといえる。すでに解析済みの2014年「すざく」木星観測の結果について、2017年6月にThe X-ray Universe 2017(ローマ、イタリア)で口頭発表し、その際の議論を通して解析手法に若干の修正が必要と判断した。その後、マラード宇宙科学研究所(ドーキング、イギリス)に赴き、木星研究の専門家らと論文執筆に向けた議論を行い、再解析の方針を検討した。この成果をもとに現在投稿論文を執筆中であり、国際会議への参加も検討している。また同研究所とレスター大学(レスター、イギリス)のそれぞれで、本研究に関する講演を行った。ESAが主導する地球観測衛星SMILE計画の会議(2017年10月)にも参加し、同じく衛星計画を進める立場として、組織体系を学んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
X線望遠鏡の開発に関しては、角度分解能向上の達成と2017年度に達成できなかったORBIS衛星のEM品の製作を目指す。2017年度の研究成果として得られた知見を活かし、東北大において100時間スケールの超長時間アニールを実施することで、本望遠鏡の形状精度目標(一段望遠鏡で5分角以下)を達成する。また2017年度の成果として高温塑性変形に関する開発サイクルを早めたことで、配置精度にも大幅な改善が期待できる。これまでに実績のない加工条件にも挑戦し、これの最適化を進めたい。そしてこれらの推進をもって、本望遠鏡の搭載が決定しているバイナリブラックホール探査衛星ORBISのEM品の完成並びに地上試験へと繋げる。並行して、地球磁気圏可視化衛星GEO-Xへの搭載に向けて、シリコン基板の厚さなど望遠鏡デザインの変更とそれに伴うドライエッチング、高温塑性変形などの加工条件の最適化を進めたい。これらの成果については、引き続き、国際会議を始めとする各学会や投稿論文で発表する予定である。 天体解析については、まずはすでに解析を進めてきた2014年「すざく」観測の木星データに関する論文を投稿する。この時、木星近傍における太陽風シミュレーションを元に議論する。その後、未着手な「すざく」木星観測データについても同様の解析を行い、解析済みの結果と合わせて、木星の周りに広がったX線放射の太陽活動に対する依存性について注目して議論する。この結果についても論文としてまとめ、木星磁気圏からのX線放射の統一的モデルの完成に繋げたいと考える。さらには並行して、2018年9月に開催・参加予定の国際会議に向けて、次期X線観測衛星 Athena における木星の観測シミュレーションを行い、2020年代後半の天文観測に対する知見と見通しを得たい。
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Research Products
(12 results)