2017 Fiscal Year Annual Research Report
液晶電気対流におけるミクロな鏡像反転対称性の破れとマクロ平面流の関係
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17J05559
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
深井 洋佑 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 液晶電気対流 / コレステリック液晶 / 協同現象 / 散逸構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
コレステリック液晶を電極間にはさみ大きな電場をかけた際に生じる、大規模な透過光パターンの移動流れ(ここでは平面流と呼ぶ)を顕微鏡観察し、物理的な機構の解明のため、その性質を明らかにすることを目指した。 まず、コレステリック液晶の電気対流を透過光観察し、得られた画像をImage Correlation Velocimetry(ICV)を用いて解析することで、平面流のパターンが時間とともにどのように変化するか調べた。その結果、およそ1時間程度ののち、平面流のパターンが変化しなくなることが判明した。この結果をもとに、自動ステージを用いて液晶セル全体を透過光観察し、ICVによる解析を行った。この結果、平面流は乱流的ではなく、対流セルの厚みの100~1000倍程度に及ぶ大きな長さスケールにおいて向きのそろった協同的な流れのパターンを示すことが明らかとなった。この流れのパターンは電極面における配向場の向きに依存し、液晶分子が電極面に垂直に配向する場合にはセル全体を循環する流れが現れるのに対して、平行に配向する場合にはレーンに分かれた対向流が生じた。液晶中にトレーサー粒子を分散させることによって、平面流に沿ってトレーサー粒子が輸送されることを示した。また、電場を一度切りもう一度印加した際に、平面流のパターンが記憶されていることから、流れを引き起こす特徴的な配向場パターンが存在すると考えられる。 本年度に得られた成果をまとめ、日本物理学会にて口頭発表、アメリカ合衆国で行われた国際会議「Fundamental Problems in Active Matter」でポスター発表している。また、オランダのTwente大学に短期滞在し、電極面での配向場のパターンを任意に決めることのできる技術を習得した。並行して、液晶電気対流中での界面成長過程でみられる普遍的なゆらぎにかかわる研究も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究申請時には乱流的であると仮定した平面流であるが、ICVを用いた画像解析の結果、一定の時間の後に、時間に対して非常に安定した流れパターンを示すことが明らかとなった。この結果をもとに、当初の予定を若干修正し、自動ステージを用いた観察によって大きなスケールでの流れのパターンを調べることを優先した。この観察の結果、循環流・対抗流といった、電極での配向条件に依存した大きなスケールの流れのパターンが生じていること・最初はランダムであった平面流のパターンが粗大化することで、それらのパターンが生じていることを示すことができた。また、トレーサー粒子を加えた予備的な実験によって、トレーサー粒子が平面流と同時に動くことが示された。加えて、平面流が電極での配向条件によって全く異なるパターンを示すことから、電極での配向条件をさらにコントロールできる手法を習得する必要性を感じ、オランダのTwente大学に短期滞在して配向技術を習得した。 さらに、2年目の計画である平面流と配向場の関係を、電圧を一度切った後に再度印加する、という簡便な手法で調べることができた。結果、配向場に平面流の向きが記憶されていることが明らかとなった。これは、電圧を印加しない状態の配向場のみを調べることで平面流の機構に関する情報が得られることを示唆している。一方で、キラル物質の濃度などのパラメータを変化させた観察はこの年次に行う時間が取れなかったが、次年度の初めに行いたい。 本年度に得られた結果は日本物理学会・国際会議「Fundamental Problems in Active Matter」の両者で発表し有意義な議論を行うことができた。以上の成果を総合し、研究は概ね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究の結果、トレーサー粒子が平面流と同時に動くことから、平面流が流体的な流れである可能性が示唆された。しかしながら、液晶とトレーサー粒子の相互作用は複雑であり、トレーサー粒子が配向場を歪めている可能性もあることから、平面流が流体的な流れであるという決定的な証拠とは言い難い。この問題を解決するため、光退色後蛍光回復法によって、蛍光退色した部分の動きを観察することにより、直接的に流体場の有無を明らかにする。また、本年度の研究によって、電圧を切った後にも平面流の向きが記憶されていることが明らかになったことから、電圧を切った液晶セルに対して蛍光共焦点偏光顕微鏡による観察を行い、平面流をつくる配向場のパターンを明らかにする。これらの観察のために、まず屈折率の異方性が小さいMLC-2039(Merck Ltd)等の液晶について平面流が生じる条件を探し、その後蛍光観察を行うことを予定している。加えて、大きなスケールで速度場を同時観察して速度相関関数などの情報を明らかにするため、視野の広い観察のできる実験系を構築する。この実験系を用い、異なる電極での境界条件・電極の形状での実験を行うことで、平面流がどのようなパターンを示すか観察したいと考えている。
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Research Products
(8 results)