2017 Fiscal Year Annual Research Report
ローカルレベルにおける移行期正義-ルワンダ・ガチャチャ裁判を中心に-
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17J05587
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
片山 夏紀 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 移行期正義 / ルワンダ・ジェノサイド / ガチャチャ裁判 / ローカルレベル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ローカルレベルに着目した移行期正義の研究であり、アフリカのルワンダで施行されたガチャチャ裁判(以下ガチャチャ)を事例としている。 研究実績を述べる前に、本研究のキーワードである移行期正義、ルワンダ・ジェノサイド、ガチャチャ、ローカルレベルを概説する。移行期正義とは、国家や社会集団が、真実、正義、賠償、和解を実践し、過去の人権侵害に対処するための、司法や非司法の手段である。ルワンダでは、1994年に、急進派フトゥが、トゥチと穏健派フトゥに対するジェノサイド (大量殺戮)を行い、50万人以上が犠牲になった。ガチャチャとは、ジェノサイドに関連する殺害や窃盗の容疑にかけられた民間人を裁くために、ローカルレベル(地方行政末端組織)で2001~2012年に施行された裁判である。 2017年度の実績は、(1)現地調査で収集した情報の整理、(2)移行期正義研究の文献調査である。 (1)報告者は、2016年まで、現地に計27ヶ月間滞在して調査を実施した。ガチャチャで裁かれた加害者と、加害者が関与した事件の被害者、双方の家族、ガチャチャの判事を中心に、計97名に聞き取りを行った。聞き取りは、殺害や窃盗に関する非常にセンシティブな話題であり、調査協力者は事実を隠したり、沈黙したりせざるを得ないときもある。ガチャチャがどのように施行されたのかを知り、情報の信憑性を高めるため、政府機関と交渉し、首都の警察署本部にて、調査地で実施されたガチャチャの裁判記録を書き写す許可を得た。2017年度は、聞き取り内容と、裁判記録を照らし合わせる作業を行った。 (2)ルワンダの事例を移行期正義研究に位置付けるために、文献調査を行い、移行期正義の研究が生まれた時代背景、理論、アフリカ諸国の事例を把握する必要がある。2017年度は、古典、学術書、学術誌を読み込んだ。 (1)と(2)の具体的な成果は、「理由」で後述する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要で記した(1)現地で収集した情報の整理に関しては、調査を助成して下さった公益財団法人松下幸之助記念財団の成果報告書にまとめた(2017年3月)。報告書は、研究者で構成される松下幸之助国際スカラシップフォーラム委員会の厳正な審査を経て、財団と委員会が主催する「第13回松下幸之助国際スカラシップフォーラム」での発表権利を獲得した。裁判記録と聞き取り内容を照らし合わせ、ガチャチャで課された賠償に焦点を当てた「紛争の償い:ルワンダ・ガチャチャ裁判」と題した口頭及びポスター発表を行った(2017年10月)。発表内容は、報告書として発行された(2018年1月)。 (2)文献調査では、アフリカ諸国の移行期正義の課題と、ルワンダの「民主主義」の課題が浮き彫りになった。K. Neil(編)の"Transitional Justice"には、1980年代以降、ラテンアメリカが民主主義に移行した経緯が詳細に書かれている。1990年代以降は、南アフリカ共和国の真実和解委員会、ルワンダやウガンダの国際刑事裁判所など、アフリカでも移行期正義の取り組みが盛んになった。しかしながら、G. Andersらは、学術誌Development and Change45(3)でアフリカの移行期正義に関する特集を企画し、過去の人権侵害への対処が一時的で例外的な措置であることや、正義と現実が乖離していることから、暴力や不正義を克服できない状況があると指摘する。さらに、T. Longmanは"Memory and Justice in Post-Genocide Rwanda"で、ラテンアメリカの移行期に想定された民主主義と、ルワンダの「民主主義」が異なっている点を指摘する。このように、ラテンアメリカ、アフリカ、ルワンダそれぞれの文脈で移行期正義を考察する必要がある。 以上をもって、研究は順調に進展した。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)の現地で収集した情報の整理に関しては、裁判記録と聞き取り内容の照合をさらに進め、2018年5月に開催される日本アフリカ学会学術大会での発表を予定している。(2)の移行期正義研究の文献調査に関しては、2018年11月に開催される日本国際政治学会研究大会での発表とフルペーパーの執筆を予定している。さらに、(1)と(2)の成果の集大成を、2018年度内に博士論文にまとめ上げる。なお、研究に必要不可欠であるルワンダ語は、日本の大学院に留学するルワンダ人を探して現在定期的に指導を受けており、今後も学習を継続する。
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Research Products
(3 results)