2017 Fiscal Year Annual Research Report
機械学習への応用を目指した安全かつ高効率な高機能暗号の研究
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17J05603
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
勝又 秀一 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 機械学習 / プライバシーリスク / 高機能暗号 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,(a)機械学習アルゴリズムに潜在するプライバシーリスクの解明と(b)機械学習への応用が期待される高機能暗号方式の十分に安全でかつ効率的な構成である.以下,本年度得た成果の中で特筆すべき内容をまとめる. 一つ目は,(a)に関する研究である.具体的には,実社会で幅広い応用を持つ,線形回帰に基づく予測システム及び協調フィルタリングに基づく推薦システムの二つの機械学習アルゴリズムに着目し研究を行なった.本研究では,上記システムに対する新しい攻撃手法を提案し,攻撃者に有利な環境がある程度整った場合には,ユーザが想定している以上の個人情報が漏洩していることを実装実験を通して確認した.この結果は,査読付き国際会議PSTで発表を行なった. 二つ目は,(b)に関する研究である.一般に,関数の計算方法は無限に存在するため,関数の最適な計算方法は,考える計算モデル(論理回路や分岐プログラム)や計算のベースとなる数学的道具の代数的構造に依存する.本研究では,秘密情報の開示を制御するために広く利用される関数の効率的な算術回路への埋め込み方法を提案し,従来よりも安全かつ効率的な検証可能擬似乱数関数や述語暗号を構成した.このテーマにおいて,暗号理論分野の三大国際会議の一つであるASIACRYPTにおいて発表を行い,国内シンポジウムCSSで学生論文賞を受賞した. 三つ目は,(b)に関する研究で,初めての耐量子性を備えたレピュテーション・システム(以下RP)の構成を提案した.RPとは,ユーザが購入したアイテムに対して匿名かつ不正なしに投稿できるシステムのことである.現在知られているRPの構成はどれも量子計算機が実現したら破られることが知られているため,耐量子性を備えたRPの実現は重要な未解決問題となっていた.この結果は,経済と暗号のトップカンファレンスである国際会議FCにおいて発表を行なった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は,上記(a)および(b)を目的とした研究において,先進的な成果を得ることができたため,研究の進捗は良好であると言える.今年度の目標の一つは,既存の機械学習アルゴリズムに潜在するプライバシーリスクを明らかにすることであったが,社会的に応用が幅広い,線形回帰に基づく予測システム及び協調フィルタリングに基づく推薦システムの二つの機械学習アルゴリズムに関して上記のような結果が得られたことは十分の進展であったと言える.さらに,関数の計算方法に着目し,最適な計算モデルや数学的道具を考察する方法論は,高機能暗号方式の安全性・効率性を高めるのみならず,暗号化したデータ上で実行する機械学習アルゴリズムの高速化にも応用できると期待できるため,今後の研究に繋がると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は,大きく分けて二つの軸で研究を進めて行く予定である.一つは,機械学習アルゴリズムに潜在するプライバシーリスクの更なる解明,および,暗号理論に基づくプライバシー保護である.今年度は,あくまで機械学習アルゴリズムの特定の側面におけるプライバシーリスクを明らかにしただけであるため,今後もどのようなプライバシーリスクがあるかを検討することは非常に重要な研究課題である.さらに,仮にリスクが発見された場合は,如何にしてより安全に機械学習を運用できるかを,暗号学的アプローチで理論的に解決する必要がある.もう一つは,機械学習と親和性が高い高機能暗号の更なる構成である.本年度は,特定の関数の計算方法を効率化できる先駆的研究成果が出たため,来年度は,機械学習を念頭にこの基礎技術のアプリケーション先を幅広く模索する.
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