2017 Fiscal Year Annual Research Report
ジェイン・オースティンにおける「小説」の規定―反教訓主義と戦略としての病気
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17J05616
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
広本 優佳 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 小説 / リアリズム / イギリス / 歴史 / オースティン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、初期19世紀のイギリスの小説家ジェイン・オースティンの作品において、小説というジャンルがどのように規定されているか、これを考察する試みである。オースティンに大きな影響を与えたとされるサミュエル・リチャードソンとの比較を研究の出発点とした。一般的には教訓的だとされるリチャードソンとオースティンを対置させることで、後者を反教訓的な作家と位置付けた。つまり、小説は道徳的なメッセージを与えるべきだとする時代の要求に反して、芸術としての小説自体の価値を追求した作家として、オースティンを考察した。 この教訓的な小説のオルタナティヴとして、オースティンの小説に見られるリアリズムの在り方をさらに考察した。このときに参考にしたのが歴史というジャンルである。事実へ忠実性という意味で、歴史は小説のリアリズムへ大きく影響を与えたうえに、オースティン自身少女時代から熱心な歴史書の読者だった。具体的には歴史小説の創始者とされるウォルター・スコットの歴史小説と、オリヴァー・ゴールドスミスやデイヴィッド・ヒュームら当時の歴史家の歴史書を精読し、オースティン作品との共通点と差異を探った。この作業は二つの観点からオースティン批評へ貢献したといえる。第一に、従来心理描写の細やかさによって定義されてきたオースティンのリアリズムを新たな視点から考察した。第二に、長らく非歴史的な日常を描く作家とみなされてきたオースティンを、逆に歴史という観点から研究した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
オースティンとリチャードソンの比較から転じて、歴史という関連する新たなテーマを見いだせたという点において、研究は進捗したといえる。これによって、やや古びた批評のテーマでもあるリアリズムという概念を、新鮮なやり方で探究できることになった。また、オースティンとスコットの共通項を探ることで、明確に批評の意義を定義できるようになった。派手な歴史的出来事を描くスコットと、平凡な日常を描くオースティンはしばしば、対置されてきたが、本研究はこれを問いなおすものである。
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Strategy for Future Research Activity |
スコットらの作品の精読によって研究を重ねた歴史というテーマを、オースティンの具体的な作品と関連付けていきたい。特に注目しているのは、オースティンの最期の長編小説『説得』である。『説得』はオースティンの長編小説の中で、唯一舞台設定に具体的な年号が使われ、当時起きた歴史事件にも言及をしている、「歴史的な」小説である。これと、スコットの小説の比較を試みたい。特に、スコットが初めて執筆した歴史小説『ウェイヴァリー』は、歴史というジャンルに非常に意識的であるため、比較材料として最適だと考えている。このときに、オースティン協会で行った、修士論文をベースにした口頭発表をさらに展開させたいと考えている。
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