2017 Fiscal Year Annual Research Report
選択的オートファジー基質Nbr1を介した脂肪酸分解制御機構
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17J05623
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
齊藤 哲也 新潟大学, 医歯学系, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | オートファジー / 脂質代謝 / NCoR1 / Pparα / Nbr1 |
Outline of Annual Research Achievements |
選択的オートファジーの機能障害が直接、代謝異常疾患、神経変性疾患、がんなどの重篤疾患の発症に関与することがつぎつぎと明らかにされてきた。しかしながら、選択的オートファジーを介した代謝調節機構は不明のままであった。p62とNbr1は、選択的オートファジーの基質ないしはアダプターとしてユビキチン化タンパク質に結合することが知られている。p62に関する研究が進む一方で、Nbr1に関する研究は国内外でほとんど進展が見られない。重要なことに、Nbr1の異常蓄積は、アルコール性肝炎、脂肪肝などのヒト肝疾患と関連するが、それらの病態形成とNbr1の関わりは不明である。選択的オートファジーによるNbr1代謝の生理的意義を明らかにするため、肝細胞特異的オートファジー必須遺伝子Atg7欠損マウス肝臓を用いて網羅的なメタボローム解析、リピドーム解析、血液生化学を行った。その結果、オートファジー欠損マウス肝臓において、「アセチルCoAの産生減少」、「アシルカルニチンの異常な蓄積」、そして「飢餓時のケトン体産生低下」が見られた。この原因は、β酸化に関わる一連の遺伝子群の発現低下によるものであった。この原因は脂肪酸分解のマスターレギュレーターであるPparαを負に制御する核内コリプレッサーNCoR1が核内に蓄積し、その結果Pparαを不活化させ、β酸化に関わる一連の遺伝子群の発現低下を起こすことに起因していた。NCoR1の核内蓄積が脂肪酸分解障害の原因であることが分かったので、NCoR1核内蓄積の分子機構を明らかにするために、タンパク質相互作用解析、細胞内局在解析を行った。その結果、NCoR1はLIR /GIMを有し、LIR/GIMを介してオートファゴソームに局在するGABARAPファミリータンパク質と相互作用すること、そして最終的にオートファジーによって選択的に分解されていることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
年次計画通り、網羅的なメタボローム解析・遺伝子発現解析を行い、さらにはNCoR1核内蓄積の分子メカニズムを明らかにすることができたから。肝細胞特異的オートファジー必須遺伝子Atg7欠損マウス肝臓を用いたリピドーム解析から、Atg7欠損マウス肝臓においてアシルカルニチンが異常に蓄積していること、血液生化学解析から、飢餓時のケトン体産生が損なわれていることを見出した。この原因を明らかにするために遺伝子発現解析を行った結果、オートファジー欠損肝臓においてβ酸化に関わる一連の遺伝子群の発現低下が見られ、脂肪酸分解(β酸化)が抑制されていることが明らかになった。また、これらと同様の結果が、Atg7 p62 二重欠損マウス肝臓においても見られた。この原因は脂肪酸分解のマスターレギュレーターであるPparαを負に制御する核内コリプレッサーNCoR1が核内に蓄積し、その結果Pparαを不活化させたことに起因していた。このβ酸化に関わる一連の遺伝子群の発現低下はAtg7 p62 NCoR1 三重欠損マウス肝臓において回復した。NCoR1の核内蓄積の分子機構を明らかにするためにタンパク質相互作用解析、細胞内局在解析を行った結果、NCoR1はLIR /GIMを有すること、LIR/GIMを介してオートファゴソームに局在するGABARAPファミリータンパク質と相互作用すること、そして最終的にオートファジーによって選択的に分解されていることを明らかにした。一方、選択的オートファジー基質Nbr1は初代マウス肝細胞にアデノウイルスを用いて発現させるだけで、NCoR1の蓄積およびβ酸化に関わる一連の遺伝子群の発現障害を引き起こすことがこれまでにわかっている。したがって、Nbr1の蓄積はオートファジー欠損肝臓と同様にNCoR1の分解を阻害することが示唆される。この分子機構を明らかにすることが今後の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
選択的オートファジー基質Nbr1は初代マウス肝細胞にアデノウイルスを用いて発現させるだけで、NCoR1の蓄積およびβ酸化に関わる一連の遺伝子群の発現障害を引き起こすことがこれまでにわかっている。したがって、Nbr1の蓄積はオートファジー欠損肝臓と同様にNCoR1の分解を阻害することが示唆される。この原因を明らかにするために、肝細胞特異的Nbr1欠損マウス、肝細胞特異的Atg7 Nbr1二重欠損マウス、肝細胞特異的Atg7 p62 Nbr1三重欠損マウスなどを用いて 網羅的なメタボローム解析、リピドーム解析、遺伝子発現解析を行う。これらのオミクス解析から得られた情報をもとに、肝臓におけるNbr1を介した転写因子PPARα阻害による代謝経路への影響について、その主因となる制御タンパク、または酵素を細胞内発現解析や遺伝子ノックダウンの手法を用いた生化学、細胞生物学的検証により決定する。さらには、Nbr1が細胞内に過剰に存在するときになぜNCoR1が蓄積するのかを解析する。具体的にはタンパク質相互作用解析、細胞内局在解析を行いNbr1の選択的分解の分子メカニズムを明らかにする。 NCoR1がオートファゴソームに局在するGABARAPファミリータンパク質と相互作用し、最終的にオートファジーに選択的に分解されることがどのような生理学的意義を持っているのかについて明らかにする。例えば飢餓時におけるケトン体による脳への栄養供給である。グルコースやアミノ酸が無い飢餓時における栄養補給は脂肪を分解しケトン体を作り出して脳に栄養を与えるが、本ケースのようにNCoR1が核内に蓄積しケトン体の産生が抑制されると、どの程度の時間でどのような影響が出るのかについても言及する。
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Research Products
(2 results)