2017 Fiscal Year Annual Research Report
近世遊廓における差別・排除の流動性:遊女評判記にみえる客・遊女・店の三者関係から
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17J05630
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
髙木 まどか 成城大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 遊廓 / 遊客 / 男性 / 遊女評判記 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、しばしば理想化して語られる近世遊廓の構造を、客になることを忌避された一部の人々(役者・被差別民等)に着目することで捉え直すものである。平成29年度は特に遊廓において登楼を忌避・拒否された人々と法規の関係についての検討を行い、以下の成果を得た。 1.長崎奉行所判決記録『犯科帳』を分析し、長崎丸山遊廓で捕縛された「穢多」「非人」「無宿」について口頭発表を行った(歴史学会第42回大会2017年12月3日「遊廓で捕縛された「穢多」「非人」「無宿」」於明治大学駿河台キャンパス)。これは遊廓における客の忌避と法規の関係を解明することを目指したもので、同じく法規で禁止された客であっても、その扱いが異なることを明らかにした。論文としても発表予定である(審査中)。 2.遊廓に通うことを公儀によって法規で禁じられた客について、町触や『新吉原規定証文』、吉原内の楼主の記録である『洞房古鑑』等を史料とし、通時的な考察を行った論考「公儀による遊廓・客の取締り」(『成城文藝』243)を発表した。同論考では公儀が一部の人々に対し遊廓へ通うことを禁じたとしても、遊廓内でそれが必ずしも受け入れられた訳でなく、遊廓における差別・排除の構造は、公儀の思惑とは別の論理として考える必要があることを析出した。 3.遊廓と同じく売買春の場である飯盛旅籠における客の禁止や客の扱いを考察し、口頭発表及び論文執筆を行った(多摩地域史研究会第96回例会2017年8月19日「多摩の飯盛旅籠」於立川女性総合センターアイム、『遊廓・飯盛旅籠の客』常民文化41)。本稿は、飯盛旅籠と吉原遊廓における客の扱いの相違を分析するために必要な基礎的考察である。 以上の基礎的考察を踏まえ、30年度は先行研究の総括、且つ客・遊女・店の関係性についてよりミクロな視点で分析を行い、遊廓内の差別・排除の構造を多角的に解明することを目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は1年を通して国内外の史料・関連文献(特に遊女評判記及び諸地域の客帳等)の収集に重きを置き、且つその収集成果を反映して研究発表及び論文投稿を行うことを予定していた。予定通り国内外の各資料館・博物館・図書館等に赴き、その結果現在までにおいて関連史料の収集について成果を得ている。その過程ではこれまで所在不明であった遊女評判記類も見出すことができたが、一部調査先の都合により収集が次年度に繰り越された。また収集したものについても翻刻が予定通り進んでおらず、一部の論考・発表に反映したに留まっている。 以上のとおり史料の収集・翻刻には課題を残したが、研究遂行のための論文執筆については若干のずれが生じつつも、概ね順調である。29年度は収集した史料を用い①忌避される客及び客に関わる規則(特に都市遊廓と地方遊廓の客に関わる規則の違い、長崎丸山遊廓で忌避された客についての規則)、及び②遊廓を理想化する言説の変遷について執筆することを想定していた。①については概ね済んだが、②については史料不足もあり、論考としてはまとめなかった。但し30年度に進める予定であった公儀が禁じた客の通時的な把握を行ったため、全体の進捗としては問題ないといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度に引続き国内外の史料・関連文献(遊女評判記及び諸地域の客帳等)の収集を進めるとともに、これまで収集した史料を翻刻し、それらを反映しながら考察を行なっていく。 史料収集については29年度に先方の都合で行えなかった諸史料、また追調査が必要なものについて優先的に行なう。論文執筆については、本研究にとって重要な基盤となる、遊廓を理想化する言説の変遷についての考察を主軸として進め、これに加え、遊女評判記類の作者自身及びその人間関係や、これまで扱っていない身分の差別・排除された客についての考察といった各論を行う予定である。 研究成果は、口頭報告・論文として積極的に発表する。また今年度は学会や研究会のみならず、公的機関等でのアウトリーチ活動も積極的に行う。以上の成果を博士論文としてまとめ、国内外に広く発表する準備も整えていく予定である。
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Research Products
(6 results)