2017 Fiscal Year Annual Research Report
重いクォークを含むハドロンによる、核物質中でのカイラル対称性の探求
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17J05638
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
末永 大輝 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | D中間子 / 核物質 / カイラル対称性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、核物質中での「カイラル対称性」の振る舞いを調べ、更に「カイラル不変質量」と呼ばれる核子質量起源を担う物理量の値の情報を得るための、理論構築を行うことである。特に本研究では、「D中間子」と呼ばれる重い中間子を用いてその情報を取り出す手法を推進している。具体的には、実験での観測量に関わる、D中間子の核物質中でのスペクトル関数を調べた。 まず、カイラル不変質量の値をゼロとする、「線形シグマ模型」と呼ばれる簡略化された理論を基にして、核物質中でのD中間子のスペクトル関数を調べた。その結果、核物質中でのカイラル対称性の変化を示す、鋭く立つ特徴的なピーク構造をそのスペクトルに発見した。この研究は、研究計画の「カイラル不変質量」の値を知るための手法の確立のために必要となった。また、ω中間子と呼ばれる軽い中間子の、核物質中でのD中間子に対する寄与を調べた。その結果、ω中間子が、核物質中でのD中間子の質量変化に大きな寄与を及ぼすことが分かった。この研究は、スペクトル関数のピークの位置を正しく理解するために必要である。更に、核物質を構築する基となる「パリティ二重項模型」を、より真空での核子の性質を正しく再現するものに改良した。 そして以上の準備を基に、パリティ二重項模型を用いた核物質中でのD中間子のスペクトル関数を調べ、「カイラル不変質量」の値とD中間子のスペクトル関数のピークの関係を調べた。その結果、そのピーク位置が、カイラル不変質量の値を反映することを見た。 以上の研究成果、特に鋭く立つ特徴的なピーク構造の発見は、D中間子を用いて核物質中でのカイラル対称性の変化を調べ、核子質量の起源に迫るための将来実験に対して、非常に有用な情報を与えることを意味する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画では「パリティ二重項模型」を基に構築した核物質中でのD中間子のスペクトル関数を調べるとしたが、これに関しては非常に複雑な計算が必要となり、また手法も確立していなかったことから、まずは簡略化された「線形シグマ模型」から構築した核物質を基に研究を行った。この研究により、核物質中でのD中間子のスペクトル関数に、カイラル対称性の情報を反映する特徴的なピーク構造が出現することを発見し、その理解をすることが出来た。この結果は、将来実験での観測量に対する有用な情報を与えるものとなる。その他にも、当初の計画には無かったが、本研究をより定量的なものに改良するために必要となった、D中間子の質量に対するω中間子の寄与の評価や、「パリティ二重項模型」自体の改良を行い、それぞれ成果に関して論文の出版を行うことが出来た。 また、ドイツの研究機関に滞在し、状況把握・情報収集を行うことは実現出来なかったが、世界的に大きな国際会議を含む、いくつかの会議・研究会や学会に出席し、本研究結果を発表した。それにより、当該実験に関係する研究者や、関連する理論の研究者に対して、情報を発信することが出来た。 現在は「パリティ二重項模型」を基に構築した核物質中でのD中間子のスペクトル関数の研究をほぼ完成させ、現在論文投稿準備中である。すなわち、研究実施計画で述べたように、スペクトル関数計算の次のステップにあたる、(反陽子)+(原子核)→(D中間子)+(反D中間子)という散乱過程における二重微分散乱断面積の計算に現在取り掛かりつつある状況である。従って、本研究はおおむね順調に進展していると評価できると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、まず「パリティ二重項模型」を基にした核物質中でのD中間子のスペクトル関数の研究を完成させる。そして次に、そのスペクトル関数を用いて(反陽子)+(原子核)→(D中間子)+(反D中間子)の散乱過程での二重微分散乱断面積の計算に取り掛かる。この計算は非常に複雑であるので、関連する計算手法を有している他の研究機関の研究者と、共同研究を行う予定である。その際に、(反陽子)+(陽子)→(D中間子)+(反D中間子)という素過程の散乱過程の評価法に関しても議論を行う。 更に、加速器を用いた実験では得られないD中間子に関する物理量を引き出すために、原子核乾板を用いたD中間子と原子核の散乱過程の研究を行う。この研究は、現在あまり理解されていないD中間子と軽い中間子との相互作用の情報を得るために必要である。また、現在観測されていない、D中間子原子核の観測にも繋がる。この研究は原子核乾板実験の研究者と共同研究して進める。また、理論計算手法に関して上記の他の研究機関の研究者とも共同研究として進める。 さらに、D中間子等のハドロンの核物質中での変化とカイラル対称性の関係に関して、ドイツの研究機関に滞在し、そこに所属している当該研究に関して広く知見を持つ研究者と共同研究の打ち合わせ・議論を行う。これは、日本では得られないような本研究に対しての新たな視点を得るために必要となるだけではなく、ドイツの実験施設(GSI)での本研究に関する将来実験の情報収集にも必要となる。
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Research Products
(17 results)