2018 Fiscal Year Annual Research Report
Designing Kitaev-type metal-organic frameworks and engineering their correlation effects
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17J05736
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山田 昌彦 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 量子スピン液体 / プロトン / 水素結合 / ハイブリッド量子液体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の初期はSU(4)量子スピン軌道液体の論文がPhys. Rev. Lett.誌に掲載された他、SU(4)ハイゼンブルク模型に対する量子モンテカルロ法などの研究をインドの共同研究者と共に主にしていたが、途中で再度もとの有機物を用いた研究に回帰することにした。上記に並行して新たに物性研究所における実験で発見されたプロトン(水素)の量子ゆらぎで量子スピン液体物質、κ-H3(Cat-EDT-TTF)2の研究を始め、実験家の話を元に、プロトンの量子揺らぎと量子スピン液体が結合した量子スピン双極子液体の理論研究を行った。 現実の有機三角格子スピン液体であるκ-H3(Cat-EDT-TTF)2を完全に再現する理論模型を作るのは非常に難しいため、模型を単純化したパイロクロア格子上のスピン・プロトン複合模型を用い、量子スピンアイスの可解模型を利用して摂動論の範囲で新たな理想化された模型が量子スピン双極子液体の基底状態を持つことを証明した。この模型においては量子スピン液体とプロトンの量子双極子液体が共存するだけでなく、プロトンとの相互作用が量子スピン液体を安定化させていることが示せ、新たな量子液体状態であり、量子バレンスボンドアイスと名付けた。また、実験で観測された同位体効果も定性的に説明することができ、複合自由度との結合がもたらす新たな量子スピン液体(ハイブリッド量子液体)のさきがけとなる研究である。この研究はPhys. Rev. Lett.誌に投稿され現在査読中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画の通り、国際学会HFM2018とICM2018で研究成果について発表した他、計画に追加してフランス・サクレーにおけるTopological phases of matter [TOPMAT]の国際会議に参加・インドに渡航し、量子スピン液体、及び、強相関のトポロジカル相について世界的な動向を調べた。さらに若手研究者海外挑戦プログラムを利用してMITに半年間滞在し、ひねり二層グラフェンなど新たな研究テーマについて学んだ。期間中アメリカ・ボストンにいたためMOF2018には参加できなかったが、代わりにボストンで2019年3月開かれたAPS March Meeting2019に参加し、量子バレンスボンドアイス理論について発表した。 この量子バレンスボンドアイスの研究は当初の計画には含まれていないが、有機物における量子スピン液体の新たな可能性を指摘した点で重要である。また、κ-H3(Cat-EDT-TTF)2は純有機物質であるが、同様に水素結合内のプロトンゆらぎが重要な役割を果たしていると期待される金属有機構造体(MOF)も存在し、MOFにおける新しいタイプの量子スピン液体の研究にも刺激を与えると考えられる。以上の理由により、今まで考慮されていなかった有機物やMOFの量子スピン液体が、プロトンとの結合により新たな状態を実現する可能性を提案した点で重要であり、当初の計画以上に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として複数の可能性が考えられる。一つは当初の研究計画に戻りキタエフ模型におけるマヨラナフェルミオンの相関効果の研究を再度行い、決着させることである。もう一つは前年の研究方策に書いた通り、マヨラナフェルミオンの相関効果を研究する一つの手段としてSU(4)ハイゼンベルク模型の量子モンテカルロによる研究を行うことである。最後の可能性として、量子バレンスボンドアイスの研究を推し進めることである。 最後の可能性は、マヨラナフェルミオンと直接関係ないが興味深い。量子バレンスボンドアイスは理想化されたパイロクロア格子上の理論模型においてのみ存在が確かめられたが、より実験に近い三角格子的な構造や、より現実的な模型においても同じような状態が安定であるか不明である。このように今の研究をより実験に近い問題へと発展させていくことも重要であり、厳密対角化などの数値計算を行う予定である。 興味深いのは量子バレンスボンドアイスなどのスピン・プロトン結合形の理論を用いてマヨラナフェルミオンの研究ができる可能性を考えることである。マヨラナフェルミオンとプロトンのようなボソン自由度を結合させることで、(摂動の)高次項から当初の目的であるマヨラナフェルミオンの四体相互作用を出すことができる。このため、このようなマヨラナフェルミオン・ボソン系を新たに扱うことで、当初の目的であったマヨラナフェルミオンの相関効果の研究を達成できる可能性があり、こちらの方向での複合形の量子スピン液体の研究も計画している。
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Remarks |
東京大学物性研究所の発行する物性研だより(ISSN 0385-9843)に解説記事が掲載された。
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