2017 Fiscal Year Annual Research Report
官稲からみた日本律令地方財政組織の特質と展開-8世紀後半から9世紀を中心として-
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17J05750
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
増成 一倫 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 官稲 / 郡稲 / 正税 / 交易制 / 土毛条 / 貢献物条 / 服属儀礼 / 律令税制 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主として、8世紀における官稲の用途について研究を進めた。中でも重点を置いたのが、官稲の一種である郡稲や正税を財源として運用される、交易制に関する検討である。具体的には、賦役令土毛条・賦役令貢献物条という、交易制について規定した令の条文の分析を中心に、それぞれ研究を実施した。 まず、土毛条について。当該条文についてはこれまで、国造などの地方豪族による服属儀礼としての産物の貢納という、律令制以前の性格を引き継ぐものとしての理解が主流であった。本研究では令規定の日唐比較、「土毛」の具体的な対象、財源である郡稲との関係などに着目して分析を進めた。その結果、土毛条は地方行政組織が地方経費である郡稲を財源とし、その土地の産物一般を示す「土毛」を調達する際の、価格設定や財源を規定したものであり、服属儀礼としての側面は希薄であることを明らかにした。 次に貢献物条について。当該条文についても、律令制以前の地方豪族による服属儀礼としての貢納を引き継いだものと考える理解が根強いほか、近年では、日本では実質的には機能していない空文規定であったとする見解も有力である。本研究では日唐の令規定の比較を中心に検討を実施した。その結果、日本令は唐令と共通の条文構造をもつが、貢納すべき物品として列挙されている品目の一部が、日本令では削除されていること。日本令で削除された品目は、調としての貢納が規定されている品目と共通点が多いことなどを指摘した。その結果、日本では貢献物条は、調などの他の税制と明確な棲み分けがなされながら、高級品の貢納規定として、律令税制に明確に位置づけられていることを明らかにした。 以上の研究により、交易制について、服属儀礼との関係が希薄であることを明らかにし、同時に律令税制の中に、交易制を明確に位置づけることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は土毛条に関する研究結果について、論文を公表し、『ヒストリア』に掲載された。また貢献物条に関する研究結果について、歴史学研究会日本古代史部会にて口頭報告を実施した。以上の成果は、交易制そのものの律令税制における位置づけの解明のほか、地方財政と中央財政との関係や、交易制の財源である官稲の特質の解明にも、不可欠な研究成果である。 よって本年度は、おおむね順調に研究が進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度口頭報告を実施した貢献物条の研究について、論文を投稿する。 また本年度は主として中央財政との関わりを中心に官稲の用途について検討を進めたが、次年度は地方における官稲の用途を中心に、8世紀後半・9世紀前半の史料を収集・分析する。その際、修理池溝料・救急料などの特定の官稲に関わる史料を中心としつつも、関連史料を幅広く収集することで、その特質や変遷を明らかにする。また、木簡などの出土文字史料を積極的に活用することで、より実態にそくした性格の解明をめざす。 以上の成果について、積極的に口頭報告をおこない、論文を投稿する。
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