2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J05786
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
後藤 渡 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | ペレック / ジョルジュ・ペレック / ジャック・ルーボー / アダプテーション / 日常性 / 枕草子 / 清少納言 / フランス文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の計画通り、今年度はジョルジュ・ペレックの創作とメディアの関わりを詳らかにした。権利者の承諾を得て、フランス国立図書館に所蔵されている映画版『眠る男』についての手稿やタイプ稿を収めた創作ノートを判読し、作家の手で切り貼りされた複数の映画評から作家が言及しなかった劇中の音楽を作家がどの様にとらえていたのかうかがい知ることが出来た。映画評のなかで必ず批評家は『眠る男』の音楽と日常生活の音を加工した「具象音楽」の類似性を指摘していた。こうした指摘がなされた記事をペレック自身が創作ノートに切り貼りしたことに鑑みても、作家が「具象音楽」のなかに作家のエッセイ「何に近づくのか」で詳らかにする「並以下のもの」を読みとっている点を明らかにした。加えて、手稿に残されたメモから映画制作者としての作家という視座を得ることもできた。 ラジオ番組の分析について、自身にとって大切な作品の抜粋を朗読する番組(『途絶えざる詩』)でジャック・ルーボーが編纂した平安時代の歌人の歌と『枕草子』の抜粋を読んでいた点にまず着目した。ペレック研究の先駆者であるベルナール・マニェによればこの番組の中で引用された作家は西洋の文脈の中で二項に分類できるとしているが、引用された日本の中世の文人たちはその分類には入らず、引用された日本の作品にはペレックの作品において重要な主題が隠されていることを明らかにした。そしてペレック自身が『枕草子』を書こうとしていた点に鑑みて、清少納言の作品をいかに創作の中に取り込んだのか、なぜ『枕草子』が未完に終わったのかをペレックの創作ノートの断片(『さまざまな空間』、『枕草子』)から分析した。ラジオ番組から『さまざまな空間』以降の作品(『考える/分類する』に収録されるいくつかのエッセイ、『人生使用法』)を読み解くうちに二つの観点では回収できない第三の視座を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
作家の創作活動と当時のメディアの関りについては当初の計画通り進展した。ペレック協会が所蔵している創作ノートのなかの構想や走り書きによって、『眠る男』については先に挙げた音楽と日常性との連関性や、作家自身がセリフの手直しや演出だけでなく、予算や報酬の分配といった実務にもかかわっていた痕跡を発見することができた。作家がプロデューサーとしての仕事をしていたという事実は、新たなる視座を与えるだろう。そしてそれを詳らかにしていくのも今後の課題である。 しかし『エリス島物語』といった他作品の分析、デュラスやロブ=グリエといった同時代の作家たちの映像作品との比較については十分に行えたとは言えないだろう。次年度はペレックの他作品の分析も創作ノートによって行い、制作過程を明らかにしていくことでペレックがどのように映像作品を創作していったのかを詳らかにしていく必要がある。 そして作家と中世の日本の歌人たちの関係という視座は当初の計画にはなく、計画実施中に生まれたものである。しかしこの主題を見つけたことで、ペレックの作品を修辞学とメディアという二つの項だけではなく、三つの項から検討することを可能にしたという事実は計画の段階からみて意図せぬ研究の進展といえるだろう。成果については、一つの発表と一本の論文で公表した。 『途絶えざる詩』の分析からペレックと日本の歌人というこれまでの研究で詳らかにされていなかった主題を展開することができたが、フランス語で放送されたラジオ作品全体の分析については十分に行えたとはいえないので、次年度の課題とする。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの成果から研究をより発展させるために、ペレックが制作にかかわったメディア作品の総合的な分析を行っていく。具体的には、『エリス島物語』、『撮影された生活』、『家出の道筋』、『セリ・ノワール』についても創作ノートを参照し、映像作品の創作経験が小説やエッセイの創作に、小説の創作経験が映像作品にどのように取り込まれていったのかを検証する必要がある。 ラジオ番組については、「1978年5月19日にマビヨン通りで見られた事象の描写の試み」を分析する必要があるだろう。なぜならこの番組の内容は未完の作品『場所』と密接につながっているからである。番組の分析を通じて、テクストを書く経験がラジオ番組にどのように生かされていたのかを示すことができるだろう。 また、当初の計画で今年度の末から行う予定だったペレックと修辞学という主題についても作品の分析を進めていく。
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