2017 Fiscal Year Annual Research Report
糖脂質の微細構造変化が駆動する筋分化過程の発見とその分子機構の解明
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17J05805
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
郷 詩織 名古屋大学, 生命農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 筋細胞分化 / ガングリオシド / シアル酸 / セラミド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は筋分化に伴う細胞膜上に発現するガングリオシドのシアル酸分子種とセラミドアシル鎖分子種の変化の分子機構の解明と、その変化の結果形成される多様な分子種の役割の解明を大きな目的として行っている。筋細胞研究は筋ジストロフィーをはじめとする多くの筋疾患に関する研究が盛んである一方、筋分化制御メカニズムや細胞融合メカニズムについては殆ど解析されていないのが現状である。とりわけ細胞膜上の糖鎖の機能解析は、今後筋疾患や発生を理解する上で、重要な課題であると考えている。本研究では現在までに筋分化に伴いガングリオシドの一種、GM3のシアル酸分子種がN-acetylneuraminic acid(Neu5Ac)からN-glycolylneuraminic acid (Neu5Gc)へと変化すること、及びセラミド分子種がd-18:1-C24:0からd18:0-C16:0へと変化することの二つの現象を見いだした。また、この両者の制御は遺伝子転写レベルで行われ、シアル酸分子種はCMP-Neu5Ac水酸化酵素(CMAH)の発現上昇によってセラミド分子種はセラミド合成酵素(CerS)2の急激な発現減少によって制御されている事を報告してきた。 今年度は筋芽細胞に発現しているCerS6に注目し更なる解析を行った結果、マウス筋芽細胞c2c12において、現在まで知られていなかったCerS6-var1の発現を見いだすに至った。CerS6-var1は通常知られるCerS6 (CerS6-wt)のC末端領域に8アミノ酸残基が挿入された構造を有しており、筋芽細胞分化後期にのみ発現した。また、マウスの様々な臓器でCerS6-var1の発現分布を解析した結果、脳、骨格筋、心筋のみで検出された。またCerS6-var1はCerS6-wtと比較して高いセラミド合成能を持つ事がGLCによる脂質分析の結果より明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は筋分化に伴う糖脂質のシアル酸分子種変化とセラミド分子種変化の二つについて解析を行っており、本年度はその両者で大きな進展が見られた。 第一にセラミド構造変化の分子機構の解明において、CerS6のスプライシングバリアントであるCerS6-var1が筋分化後期に発現上昇することを見いだした。このCerS6-var1は通常知られるCerS6-wtと比較して、C末端に8アミノ酸残基の挿入がある。C末端領域はAcyl-CoAの選択性に関与しているとの報告もあり,セラミドのアシル鎖の長さと量について、TLCにてセラミドを分画後、そのアシル鎖をGLCにて測定した。その結果CerS6-var1はwtと比較し酵素活性量が高いだけでなく、C16:0を優先的に基質とすることが明らかになった。更にこの酵素は最初c2c12細胞において発見されたが、マウスの筋組織でも発現していることが明らかになった。またマウスの様々な組織cDNAを用いて筋以外の組織におけるCerS6-var1の発現を調べたところ、骨格筋以外では心筋、脳のみで発現が検出された。そこでマウス神経芽細胞腫であるNeuro2a細胞を用いて、神経分化過程におけるCerS6の発現変化を調べたところ、分化後期ではCerS6-var1が発現している共通点が見いだされたが、分化初期ではCerS6-var1とwtの両者が発現するという違いが観察された。 第二に、シアル酸分子種発現機構の解明に向けて、c2c12細胞を用いてNeu5AcよりNeu5Gcを生合成する酵素CMAHの安定発現株を樹立し、現在解析を行っている。一方で、ヒト不死化筋芽細胞株であるHu5/KD3細胞を用いて解析を行った結果、c2c12細胞と同様にCMAHの発現が筋分化に伴い上昇してくることを見いだした。以上の理由により、本研究は全体として当初の計画以上に進展していると評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は筋細胞膜上に発現している糖鎖構造に注目し、筋分化によって変化するガングリオシド分子種の機能的役割を明らかにするため研究を行っている。 今後は(1)本年度新規に発見したCerS6-var1の更なる機能解析と、(2)CMAHを発現させた筋芽細胞での機能的変化についての解析、(3)CMAHのNeu5Gc生合成能以外の酵素機能解析の三つを主軸に行う予定である。(1)に対する方策として、CerS6-var1の発現が、通常発現していない未分化の筋芽細胞に与える影響について模索する。更に脳神経細胞においても発現が認められたことから、神経―筋細胞の共通性について解析を行う。(2)に対して、本研究では既に、Neu5Gcの発現は形成された筋管繊維上ではなく、その周囲に存在する未分化の細胞でのみであることを見いだしていることから、この単核の細胞が筋繊維にどのように影響を及ぼしているのかを検証するため、今後確立したCMAH高発現c2c12細胞株を用いて、細胞間相互作用解析を行う。またc2c12細胞分化過程よりRaft画分を採取し解析した結果、Neu5Gcを含む分子は糖脂質のみであったことから、CMAH高発現株とControl細胞株のRaft画分を採取し、Raft中に発現しているタンパク質の変化を免疫学的手法・銀染色法などを用いて解析する。(3)に対しては現在ヒトCMAH偽遺伝子のクローニング、発現ベクターの構築を行っている。ヒトCMAH偽遺伝子は他動物種のCMAHと比較しよく保存された配列を持っているが、活性部位であるexon6が欠損しているため、活性を持たないことが知られている。しかしヒト筋芽細胞ではCMAH偽遺伝子の発現が確認出来たことや、CMAHのexon6以外の部位における役割について現在まで報告が無い事から、本研究ではCMAH偽遺伝子発現株を作成し、発現意義について解析を行う。
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Research Products
(5 results)