2018 Fiscal Year Annual Research Report
Whole investigation of mechanism of rodenticide resistance of wild rodents and application to novel rodenticide
Project/Area Number |
17J05808
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
武田 一貴 北海道大学, 大学院獣医学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
Keywords | 殺鼠剤 / ビタミンK / 野生動物 / 毒性 / 感受性評価 / 殺鼠剤抵抗性 / オオコウモリ / 齧歯類 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は現在世界各地に出現している殺鼠剤抵抗性齧歯類の抵抗性メカニズムを解明し、有効な防除策の開発案とする事を目標としている。本年度は大きく分けて(1)殺鼠剤標的分子の解析(2)標的外生物への影響評価の2点について解析を実施した。 (1)殺鼠剤標的分子の解析:殺鼠剤はビタミンKエポキシド還元酵素(VKOR)の活性を阻害し出血毒性を発揮する。世界の抵抗性齧歯類の多くがこのVKORに遺伝子変異を獲得し抵抗性を得ている事が報告されている。しかしながらVKORの生体内での反応経路などは未解明の点が多く、実験的に解析するには制限がある。従来VKORの反応を再現するために一般的な還元剤であるジチオスレイトール(DTT)が主に用いられてきたが、DTTは生理的な活性を再現できていないという報告がある。そこで本研究ではよりマイルドな還元剤として近年報告されたトリス3ヒドロキシプロピルホスフィン(THP)という物質を用いたVKORの測定系を立ち上げた。これにより生理的に近いVKOR活性を測定可能だと期待される。 (2)標的外生物への影響評価:殺鼠剤の散布は時として野生動物に対し中毒事故を引き起こす事がある。日本において現在殺鼠剤散布と野生動物の関係が注視されるのが小笠原諸島である。小笠原諸島は固有の生態系を持つが、近年外来ネズミによる生態系攪乱が深刻な問題であり殺鼠剤による駆除が行われている。小笠原諸島唯一の固有哺乳類であるオガサワラオオコウモリへの影響評価を行うために、本年度は近縁種であるエジプシャンルーセットオオコウモリと一般的な実験ラットを用いて殺鼠剤の単回投与による薬物動態・薬力学的解析を実施した。その結果、コウモリにはラットより殺鼠剤が作用しづらく、その原因が高い排泄能である事が判明した。今後はオガサワラオオコウモリとエジプシャンルーセットオオコウモリの遺伝子を比較し感受性を推測する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度、本研究は主に①殺鼠剤標的分子ビタミンKエポキシド還元酵素の解析②標的外野生動物の殺鼠剤感受性評価を行ってきた。 ①殺鼠剤はビタミンKエポキシド還元酵素(VKOR)という酵素に結合し、その機能を阻害する。一方、VKORについてはまだ不透明な点もあり評価系についても改善の余地がある。そこで本年度はin vitro試験で用いられる還元剤を変更し、より生理的な還元状態を再現する事を試みた。その結果、新規還元剤を用いてVKORの酵素活性、殺鼠剤による阻害を速度論的に解析するメソッドを立ち上げた。本成果は国際シンポジウムで発表済であり、現在学術誌に投稿準備中である。 ②現在野生動物に対する二次被害が問題となっている。我が国では小笠原諸島で外来ネズミを駆除するため殺鼠剤が散布されており固有の生態系への影響が危惧される。小笠原諸島唯一の固有哺乳類種はオガサワラオオコウモリだが、本種の感受性評価のため、近縁種のエジプシャンルーセットオオコウモリを用いたin vivo薬物動態・薬力学学的解析を実施した。その結果、本コウモリはラットに比べて殺鼠剤の排泄が早く、薬効も発現しづらい事が判明した。本結果も国際シンポジウムで既にポスター発表を行ったほか、現在学術誌に投稿準備中である。以上を受けて、本年度の研究は期待通りに進展していると評価する。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果を受け、次年度には以下の試験系を実施する予定である。(1)殺鼠剤標的分子VKORの種差の解析(2)新規殺鼠剤の開発 (1)殺鼠剤標的分子VKORの種差の解析:2018年度の研究成果では生理的に近い反応条件でのビタミンKエポキシド還元酵素のin vitro評価系を立ち上げた。一方、VKORには幅広い動物種差や数多くの遺伝子変異パターンが存在し、これが殺鼠剤への感受性の種差の一因となっている事が知られている。そこで、当該年度では2018年度立ち上げたトリス3ヒドロキシプロピルホスフィンを用いたin vitro VKOR活性測定試験を用いて、殺鼠剤抵抗性齧歯類の変異型VKORや現在二次被害が報告されている猛禽類など鳥類種におけるVKOR活性と殺鼠剤による阻害率を測定し、感受性評価を実施する。 (2)新規殺鼠剤の開発:2017年度の研究において、東京の殺鼠剤抵抗性齧歯類ではVKORの遺伝子変異に加え、高い殺鼠剤の解毒代謝能を有し、それに伴う迅速な排泄能が抵抗性に寄与しているという知見を発見した。当該年度はこの点に着目し、既存の殺鼠剤に代謝阻害剤を添加した新規殺鼠剤の応用開発を目指す。従来の殺鼠剤抵抗性齧歯類対策では純粋に毒性の強い物質を用いていたため野生動物での二次被害が絶えなかったが、本新規殺鼠剤は比較的安全な殺鼠剤であるワルファリンをベースにする事で抵抗性齧歯類へも有効かつ野生動物への二次被害を最小限に留める事を目指す。
|
Research Products
(9 results)