2018 Fiscal Year Annual Research Report
XFELを用いた多孔性金属錯体の時間分割X線構造解析
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17J05877
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
三島 章雄 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 多孔性金属錯体 / ガス吸着 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は液化水素製造に伴う問題であるボイルオフ問題の解決のために、高電場勾配を有する配位不飽和金属イオン(OMS)で囲まれたナノ空間物質を開発し、気体状態での超高速核スピン転換を実現する新規多孔性金属錯体(MOFs)の開発を行った。{Fe(2,2’-bpy)[Ni(CN)4]}(MOAM-Fe)は77Kで選択的なO2吸着挙動が観測された。選択的O2吸着特性を発現した原因について分光学的測定により評価した。O2雰囲気下IR測定においてCNバンドの高波数シフトが確認した。これは吸着されたO2分子が構造体中のOMSと相互作用していること示唆している。また、O2雰囲気下Raman分光測定では1500cm-1付近に吸着されたO2と帰属されるバンドが観測された。SEMと蛍光X線分析測定では構造体中に欠損が多く、OMSも多く存在していることがわかった。以上、MOFsの構成成分を適切に選択することで構造体中の欠損によるOMSの増加が選択的ガス吸着に有効であることが明らかとなった。これらの結果より、水素核スピン転換におけるOMSによる摂動印加のための新たな分子設計の知見を得た。また、ニトロプルシドを構成成分とする{M(4,4’-bpy)[Fe(CN)5NO]}(M=Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn)を合成し、ガス吸着挙動について検討した。Znイオンを用いた{Zn(4,4’-bpy)[Fe(CN)5NO]} はO2をN2,Arの約22倍吸着することが明らかとなった。しかし、Fe,Co,Ni,Cuイオンを用いたMOFでは選択的酸素吸着特性は発現しなかった。{M(4,4’-bpy)[Fe(CN)5NO]}はFeIIIに配位したNOがガス分子との相互作用サイトとして機能していると考えられるためMOFsを構成する金属イオンを変えることで間接的に相互作用部位の強さを制御できることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ガス分子に強い摂動を印加可能な相互作用部位を組み込んだ多孔性配位高分子(MOFs)を合成し、さまざまなガス吸着測定を行うことでその相互作用部位のガス分子への影響をガス雰囲気下におけるRaman、IRスペクトルおよびSPring-8での粉末X線回折の温度可変in situ測定により詳細に調べ、選択的ガス吸着挙動の発現機構について検討した。2次元系{Fe(2,2’-bpy)[Ni(CN)4]}では構造体中の欠損を意図的に作製することで酸素ガスに対して活性な相互作用サイトによる高い酸素吸着選択性を見出した。また、3次元系{Co(pz)[Pt(CN)4]}では酸素吸着に伴う多段階構造変化と細孔内での酸素分子の三量化が示唆された。この化合物についてSPring-8 における粉末X線回折から得られたデータを基に吸着時のリートベルト構造解析を行った。その他にも、ニトロプルシドを構成成分として用いた多孔性配位高分子の選択的酸素吸着挙動発現にも成功した。今回得られた知見は、種々のガス分子に対する相互作用サイトの親和性を配位環境の調節により自在に制御できることを示すものであり、研究課題の対象ガスである水素分子に対しても応用可能な優良な結果である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、1,2年目で得られた情報をもとに水素核スピン偏極による生体原子核の高感度測定に指向した応用材料の開発を本格的に進める。光活性前駆体を導入した新規多孔性金属錯体を合成する。光の透過度を考えて、多孔性金属錯体の金属イオンは、励起光の吸収帯を避けZnIIなどを用いる。有機配位子には、光活性基を有するカルボン酸誘導体や1,4-ビピリジルベンゼン誘導体を用いる。それぞれ光反応後は、ナノ空間にラジカル、カルベン、ナイトレンを生成し、H2に対して強電場を印加できるようなオルソ・パラ高速転換場を創製する。また光活性化によるナノ空間の電場変化は、フェムト秒からピコ秒領域で起こるとされている。光によるナノ空間の活性化の直接観察を行うため、XFELの超短パルスX線を用いて実験を行い、H2捕捉過程の解明、活性種とH2が相互作用する前駆現象を観測する。
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