2017 Fiscal Year Annual Research Report
リポキシゲナーゼが担う植物の傷害ストレス受容・応答機構の解明
Project/Area Number |
17J06032
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
望月 智史 山口大学, 創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | リポキシゲナーゼ / シロイヌナズナ / カルシウムイオン / 防御応答 / オキシリピン |
Outline of Annual Research Achievements |
植物は食害や病原菌感染などで傷害を受けると、傷害部位、さらに傷害を受けていない離れた部位でも傷害を認識し、防御応答を行うことが知られている。神経系や循環器系を持たない植物は動物とは異なる傷害応答機構を開発している。 本研究では、植物LOXによる障害刺激認識機構と、その刺激認識機構が植物の進化過程でいつ獲得されたのか、を解明することを目的とした。本年度の成果として、哺乳類LOX活性化アナロジーから、カルシウムイオンキレート剤を用いた実験を行ったところ、シロイヌナズナにおいてGLVs及びJA前駆体のOPDA生成が抑制された。LOX2下流酵素はカルシウムイオンキレート剤によって阻害されなかったことから、LOX2がカルシウムイオンを傷害刺激認識因子として用いていることを同定した。これは植物LOXも活性化にカルシウムイオンを必要とすることを明らかにする初めての例と考える。これによりシロイヌナズナLOX2は活性化し防御応答関連物質を生成し、外敵への応答を行うことが分かった。 トマトを用いた実験では、シロイヌナズナと同様にカルシウムイオンキレート剤によってGLVs/JA生成量が抑制されたが、タバコ、クローバー、ダイズ、イネ、トウモロコシでのGLVs/JA生成におけるカルシウムイオンキレート剤の影響は一貫していなかった。シロイヌナズナと異なり、GLVsとJA生成には異なったLOXアイソザイムを用いているため、植物種それぞれのLOXアイソザイム及び下流の酵素の影響を精査する必要があるが、カルシウムイオンが植物共有の刺激認識因子ではないことが示唆された。同じ科内でもカルシウムイオンキレート剤の効果が異なるため、カルシウムイオンによる刺激認識機構は植物がそれぞれの種で適切な防御応答をするために独自に獲得した機構だと推測できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
シロイヌナズナにおけるLOX2活性化因子がカルシウムイオンであることを同定した。LOX下流酵素はカルシウムイオンを活性に必要としない事も確認し、カルシウムイオンを障害刺激認識因子として用いており、LOX2がGLVs/JAバーストを引き起こしていることを確認した。lox2欠損変異体を用いてリパーゼの活性を観察したところ、生成されるはずのGLVs/JA量と釣り合わないことが観察され、遊離のリノレン酸を介さないGLVs/JA生成経路がバーストを引き起こすのに重要な経路であることが明らかになった。大腸菌発現組換えLOX2においては、不安定ではあるが活性のある酵素を発現すことに成功した。しかしながら、室温での数分保温など、カルシウムイオン以外の要素での活性化が認められる。恐らく、組換えLOX2のコンフォメーションが植物細胞内本来と異なることが原因と考えられ、未知の機能によってコンフォメーション変化が起こっていると期待できる。また、無細胞系等の大腸菌とは異なる発現系を検討している。シロイヌナズナ生体内での活性化を観察するため、ドメインシャッフリングしたLOX2を発現した組換え体の作成を行っており、これら組換え体のGLVs/JAバーストを観察することによってカルシウムイオンと結合するドメインやアミノ酸残基の推測を試みている。カルシウムイオンによるLOXの活性化は植物共通の機能では無かったため、カルシウムイオン以外の活性化因子の探索が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
GLVs/JAバーストは数秒から数分で起こる反応である。LOX2の基質はチラコイド膜脂質の約50%を占めるモノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)であるが、傷害によってチラコイド膜からMGDG分子が遊離してLOX2が反応する、とは生成速度から考えにくい。そのため、MGDG分子のみでなくチラコイド膜全体の膜構造がLOX2の結合に重要であると予想される。これを解明するため、チラコイド膜の膜物性とLOX2との相互作用を観察する。LOX2抗体を用いたウェスタンブロッティング実験ではLOX2が基質である葉緑体チラコイド膜や包膜に結合していることを確認している。これを用いて、界面活性剤等により膜物性を変化させたチラコイド膜との相互作用を観察し、さらにカルシウムイオンとの関係性を精査する予定である。また、このLOX2抗体ウェスタンブロッティングを用いてチラコイド膜との結合様式を観察することで新たな活性化因子をスクリーニングすることを検討している。併せて、大腸菌発現組換えLOX2におけるコンフォメーション変化を起こす未知の機能や因子の同定もこのシステムを用いて行う予定である。一方で、ドメインシャッフリングしたLOX2を発現させたシロイヌナズナ組換え体の作成を行っており、カルシウムイオンと結合するドメインやアミノ酸残基の推測を試みる予定である。
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Research Products
(6 results)