2018 Fiscal Year Annual Research Report
深層海洋大循環像の解明に向けた南大洋における乱流混合の定量化
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17J06060
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 杏 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 南極周極流 / 乱流 / 内部波 / パラメタリゼーション |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年1月、2018年1月にオーストラリア南方沖において実施した乱流強度・流速・密度の同時観測データに加え、英・米の研究チームによってケルゲレン海台近傍で実施された大規模観測のデータセットの解析を行った。いずれのデータセットにおいても、南極周極流ジェット上において、既存の乱流パラメタリゼーションは実際の乱流強度を3倍以上過大評価してしまう傾向が確認された。この過大評価傾向が顕著な場所では、背景内部波エネルギーの鉛直波数スペクトルが低波数側に「こぶ」を持ち、乱流パラメタリゼーションにおいて暗黙に仮定されている平坦な形状の Garrett-Munk (GM) スペクトルモデルからは大きく歪んでいることがわかった。 上記のデータ解析と並行して、3次元の「波追跡シミュレーション (eikonal calculations)」を用いた数値実験を行い、現場観測で確認された「鉛直波数スペクトルの歪み」が乱流パラメタリゼーションの推定精度に与える影響について定量的に調べた。数値実験の結果、鉛直低波数側に歪んだ背景内部波場において、乱流パラメタリゼーションによる乱流強度の過大評価傾向が再現され、そのメカニズムも明らかになった。過大評価傾向の程度は、パラメタリゼーションに使用する内部波スペクトルの鉛直波数帯の選び方に強く依存した。 乱流パラメタリゼーションの原案が提示されて以降、これまでは背景内部波スペクトルの「周波数方向の歪み」に着目した改良が行われてきた。それに対して本研究の結果は、南極周極流域における乱流強度を正確に推定するためには「鉛直波数方向の歪み」を考慮する必要があるということを初めて示した。本成果は、中規模渦活動の活発な他海域 (黒潮流域等) における乱流混合過程の解明や、深層海洋大循環モデルにおける乱流パラメタリゼーションの精度向上に大きく貢献すると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1. 2016年1月に実施した現場観測の解析結果についてまとめた論文が、査読・改訂を経て、2019年1月に出版されたが、当初の予定よりは遅れてしまった。 2. 研究代表者らが実施した現場観測データだけでなく、英・米の研究グループが実施した大規模現場観測のデータを共有させて頂けたことで、統計的に信頼性の高い解析結果を得ることができた。 3. しかしながら、波追跡シミュレーションを用いた数値実験でこれらの現場観測の解析結果を再現するために、想定以上の時間を要してしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果から、南大洋において既存の乱流パラメタリゼーションが乱流強度を過大評価傾向してしまう理由は、背景内部波スペクトルの鉛直波数方向の歪みであることが示唆された。その一方で、先行研究 (Waterman et al. 2014) では、過大評価傾向の原因は、風下波と南極周極流に伴う地衡流シアーとの間の「波-平均流相互作用」に伴い、乱流混合が抑制されることではないか、という考察がなされている。この仮説についても3次元の波追跡シミュレーションを用いて検証する予定である。 また、南極周極流域における現場観測で確認された、背景内部波スペクトルの「鉛直波数方向の歪み」の形成要因についても、さらに詳細なデータ解析を行うことで調査していく予定である。
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Research Products
(3 results)