2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17J06077
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
川上 直也 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | トポロジカル絶縁体 / 原子間力顕微鏡 / ビスマス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では二次元トポロジカル絶縁体の候補物質であるBi薄膜の電子的性質を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて明らかにすることを目的としている。AFMは探針と呼ばれる鋭い針を試料に近づけ、探針-試料間に働く原子間力を検出することで、試料表面を原子レベルで画像化することができる顕微鏡である。電流を検出する走査型トンネル顕微鏡(STM)と異なり、電流を流さない絶縁体を観察できるという特徴を持つ。一方、探針-試料間に働く原子間力が弱い場合、必ずしも原子分解能が得られるわけではない。本研究で対象としているBi(111)薄膜は化学的に安定で、働く原子間力は弱いと考えられれる。AFMを用いてBi(111)を原子分解能で観察できるかは自明ではなく、どのような像が得られるか確かめる必要がある。そのため、Bi(111)薄膜についてSTM像とAFM像を取得し、比較を行った。 STM像においては原子位置を表す明るい点が三角格子状に並んでいた。これは、Bi(111)薄膜の再表面層の原子配列を反映したものである。AFM像においては明るさの異なる二種類の明るい点がハニカム格子状に並んでいる様子が確認できた。明点の周期はBi(111)の周期と一致し、AFM像もBiの原子周期を反映していることが分かった。2つの像を比較することで、AFM像における二種類の明るい点は最表面層、表面第二層の原子位置に対応していることが分かった。以上より、AFMを用いるとBi薄膜の原子分解能観察ができるだけでなく、STMでは見えなかった第二層原子まで画像化できることが分かった。この結果はAFMのBi研究に対する有用性を示すだけでなく、AFMがSTMを凌駕する分解能を持つことを証明する重要な成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究における最終目標は、絶縁体基板上に二次元トポロジカル絶縁体を作成し、物性評価を行うことである。絶縁体基板では十分な導電性が得られないため、この分野でよく用いられる走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いることはできない。そのため、STMと同様に原子分解能を持ち、絶縁体において用いることができる原子間力顕微鏡(AFM)を用いて物性評価を行うことを計画している。絶縁体基板上に作成する候補物質として、Biからなる単層ハニカム物質があげられる。作成した物質をAFMで観察することになるが、そもそも化学活性の低いBi層をAFMで観察できるのかどうかは明らかでなかった。AFMでBiの観察ができないのであれば、他元素を用いるなどの代替手段を検討する必要がある。そのため、絶縁体基板上に試料作成を行うのに先んじて、Biハニカム層と同様の構造をもつBi(111)薄膜についてAFM観察を行った。その結果、AFMを用いてBi表面を観察することで、原子分解能の像が得られることが確認できた。また、最表面層の原子だけでなく、表面第二層の原子も画像化できることが分かった。これまで原子分解能が得られる顕微鏡としてSTMがよく用いられてきたが、STMでは最表面層の原子しか画像化できない。第二層原子まで画像化できることで、原子レベルの構造決定などにおいてAFMがより有用であることを示す成果が得られたといえる。以上のように、Bi観察においてAFMを活用することで、これまでにない情報が得られることを示す重要な成果が得られている。一方で、当初の計画にある絶縁体基板上に二次元トポロジカル絶縁体を作成するという点ではやや遅れているといわざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
AFMを用いたBi薄膜の原子分解能観察が可能であることが分かったので、絶縁体基板にBiを蒸着し、絶縁体基板上に単層Biハニカム層を作成し、AFM観察を行う。金属コート探針を用いることで、AFM測定と同時にトンネル電流を検出し、作成した膜のエッジ部分に局在するトポロジカルエッジ状態の特性評価を行う。研究の進捗が順調であれば、さらに磁性分子・原子を蒸着しエッジを修飾することによる特性変化を観察する。 また、Bi(111)薄膜についてSTM像を上回る分解能を得ることに成功したため、これを利用してBi(111)薄膜のエッジの原子構造の解明に取り組む。Bi(111)には構造の異なる二種類のエッジが存在することがすでに明らかになっているが、STMを用いた実験では詳細な原子構造は確定されていない。AFMにより第二層原子まで可視化することで、二種類のエッジの原子構造がどのようになっているか、また構造の違いが電子状態にどのように影響しているかを明らかにする。
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Research Products
(2 results)