2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17J06203
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
加藤 孝郁 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 構造生物学 / 植物 / 鉄イオンホメオスタシス / 液胞 / 金属イオン輸送体 |
Outline of Annual Research Achievements |
全ての生物は遷移金属イオンを補因子として利用し、エネルギー産生や酸化還元反応などを行っている。一方で、過剰に遷移金属イオンが存在すると毒性を示すことが知られている。そのため、生物は遷移金属イオン濃度を適切に維持するホメオスタシスを有している。植物において、液胞は鉄などの金属イオンを隔離し貯蔵する細胞小器官である。VIT1は液胞内腔へ金属イオンを輸送することで隔離・貯蔵を実行する液胞膜局在の鉄イオン輸送体である。VIT1は植物の鉄イオンホメオスタシスに関わることが報告されているだけでなく、遺伝子組換え技術による鉄含有量を向上させた作物の作出やマラリア原虫の相同遺伝子を標的とした新規抗マラリア薬の開発にも期待されている。しかしながら、VIT1の輸送機構は不明な点が多く、詳細な結晶構造を解明することが望まれていた。 本研究によって、植物に由来するVIT1の結晶構造を高分解能で決定した。VIT1は膜貫通ドメインと細胞質ドメインの2つのドメインによって構成された二量体であった。膜貫通ドメインは輸送基質と結合するためのポケットが形成され、このポケットには保存性の高い酸性残基やメチオニン残基、膜貫通ヘリックスの構造変化に寄与するプロリン残基がそれぞれ存在した。細胞質ドメインは5つのグルタミン酸と1つのメチオニンが金属イオンを配位していた。さらに、細胞質ドメイン単体の結晶構造も決定し、輸送基質を含む複数種の金属イオンを結合する事を確認した。構造情報と変異体解析の結果から、VIT1は細胞質ドメインに一過的に金属イオンを結合させ、膜貫通ドメインの輸送効率を制御する機構を提唱することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
細胞質ドメインに亜鉛イオンが結合したVIT1の全長構造を当初の予定より早く決定することができた。さらに、細胞質ドメイン単独のタンパク質を高純度に精製し、良質な結晶を得ることにも成功している。この結晶に複数種の金属イオンを浸潤させることによって、輸送基質を含む4つの金属イオンが結合する事を確認した。この結果は当初予定していない成果であり、特に高分解能の構造から金属イオンの配位様式は特殊なもので、これまでに報告されている配位構造とは異なるものであった。 酵母とリポソームを用いたそれぞれの変異体解析も当初の予定以上に進行した。特に、金属イオンの輸送経路ではない細胞質ドメインの変異体は活性が顕著に減少することが確認された。以上のことから、生体内において容易に酸化される二価鉄イオンを細胞質ドメインに一過的に結合させ、膜貫通ドメインによる基質輸送の効率を上げていることが示唆された。このような金属イオンの輸送と結合を行う二機能性の膜輸送体はこれまでに報告されておらず、新しい膜輸送体の知見となると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
今回決定したVIT1は細胞質側に開いた構造のみである。そのため、輸送サイクルにおける輸送体の構造変化をあまり議論できていない。現在、膜貫通ドメインに存在するプロリン残基の変異体がリポソームにおいて活性を低下すると確認している。今後、このプロリン残基以外に輸送時の構造変化に寄与するアミノ酸残基の特定を進める。また、分子動力学シミュレーションを用いた、膜貫通ドメインの構造変化の解析を共同研究を通じて行う予定である。 マラリア原虫もVIT1を有しており、寄生サイクルにおいて主要な役割があることが示唆された。さらに、VIT1は動物が有さない膜輸送体のため、マラリア原虫のVIT1を標的とした薬剤は安全性が高く、効果的な治療を期待される。今後はマラリア原虫のVIT1の構造解析も目指す予定である。
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